PEACE MAKER

□永遠の残像の欠片を貼り合わせ
1ページ/1ページ



彼女が誰かに恋をするということが、正直どうしてか考えられなかった。恋愛感情がないとか、そういうのではなくて。ただ、本当になんとなく。強いて何か言うとするならば、彼女はとにかく剣に一筋で、浮ついた話がまったくないことが一つの理由としてあげられるかもしれない。彼女の姿を見かけるときはほとんどと言って良いほど剣を握っていた。素振りをしていたり、丁寧に剣の手入れをしていたり。隊内で唯一の女隊士であることに、誇りと共に少なからず劣等感を抱いているようで、女であることを理由に嘗められるのがひどく嫌だと言っていた。

けれど、そもそもなぜ彼女がこの新撰組へ入隊したのかは知らない。同じ年頃の女の子のように、綺麗な着物を纏って、可愛くお洒落をして、恋の一つや二つしていた方がよっぽど幸せであるだろうに。前から思っていた、彼女の綺麗な手に剣は似合わない。いつの頃だったか、彼女に一度聞いたことがある。恋はしないのですか、と。彼女は答えた。

「相手がいないので」

恋なんて出来ないんです。そう言って小さく笑うだけだった。謙遜しているのだろうか。

「あなたを恋い慕う男なんて、いくらでもいますよ」

それはもう腐るくらいにだ。そう言うと、彼女は困ったように笑って首を横に振った。それはどこか、しっかりとつなぎ止めておかないと今にも儚く消えてしまいそうであった。初めて彼女に触れた。思わず抱き寄せた彼女はとても柔らかくて、とても小さかった。強いだのなんだのと言われていても、彼女もまったく普通の女の子なのだ。嗚呼、やっぱり彼女に剣は似合わない。花だ。その手には花だろう。世間から蔑まされ、罪に苛まれ、手を紅く染めるのは私だけでいい。彼女はそんな汚いことなんて、何ひとつ知る必要などないのだ。斬る斬られる。殺す殺される。もうそんなものは怖くなどなかった。それなのに彼女の手が紅に染まることの方がよっぽど恐ろしいとは滑稽だ。それを守るためならば、このまま押し倒してしまっても良いとさえ思った。この腕に閉じ込めてしまって、もうそんな恐ろしいことなど出来ないように。

「…もう、いないんです」

狂気じみた思考がひしめくなか、彼女の消え入りそうな声が脳に静かに浸透した。そう付け加えた彼女の力ない笑顔はひどく悲しげであった。そうか、そういうことか。そんなの反則じゃないか。勝ち逃げだなんて反則だ、反則だ。死ということで、その男は彼女の中で永遠に不動のモノとなり、神にも似た存在として君臨し続けるのだ。それは例え誰がどう足掻こうとも、決して侵すことのできない絶対的なモノとして確立される。これは私がどうしようとも始めから結果の見えた勝負だったのだ。彼女を癒すことのできる人間など、世界中を探し回っても存在しない。



永遠の残像の欠片を貼り合わせ


title『Trasparent』


アンケートを元に書かせていただきました、ありがとうございます


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ