永倉さんちの新八くん
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Act:25
家に帰るとなぜか永倉くんがわたしを迎えてくれた。
「おかえりなさい」
本を読んでる永倉くん。
ソファでくつろいで。
「あれ・・・なんでいるのかな?」
「もらったもの使わせてもらってるよ」
「あ、そっか。合鍵渡したんだっけね」
なるほど、なるほど。
先日のことを思い出して納得。
とりあえず冷蔵庫で冷えた麦茶で喉を潤し、わたしも永倉くんの隣に腰掛けた。
相変わらず本を読み続けている永倉くん。
わたしなんだか妙に納得してしまったけど・・・
「まって、永倉くん。わたしの勘違いだったらごめんね。『もしものときのため』って話しだったような気がするんだけど・・・」
「うん・・・気がするだけでしょ?」
「そうだよね、うん。そういうことでいいです・・・」
こういうときの永倉くんには敵わないことは、もう充分理解しているつもりだ。
口では敵わない。
それ以外でも勝てるところなんて無いに等しいけれど。
テーブルにコップを置き、背もたれに身体を預けて目を閉じた。
本をめくる音が部屋に響き、眠気を誘う。
「レポートは?」
「あるんだった・・・」
「じゃあご飯のあとにね」
わたしの頭に手を置いた永倉くんに「見てくれるんだ?」と首をかしげた。
そんなわたしに永倉くんはただ笑って応えた。
「眠い?」
「すこしだけ・・・」
「寝てていいよ。ご飯できたら起こしてあげる」
「作れるの?」
「おれを誰だと思ってるの?」
おれだよ?
そういって不敵に笑う永倉くん。
いよいよ視界が狭まってきて、うとうとするわたしにブランケットを掛けると、永倉くんはそのままわたしの頬に顔を近づけてきた。
けれどわたしが予期していた頬への感触はいつまで経っても訪れない。
「永倉くん?」
見上げるわたしに困ったように笑う永倉くん。
「おやすみ」
永倉くんはわたしの髪を軽く梳くと、キッチンへと向かってしまった。
期待していたわけじゃないけれど。
触れてこない永倉くんがどこか寂しく感じた。
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