PEACE MAKER 2
□ある日の稽古
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日々の鍛錬は血のにじむような稽古の積み重ねだというが、おれの場合は骨折の一歩手前である。
「し…死ぬかと思った…」
「…すみません」
腹を抱えて稽古場に横たわるおれの横で、沖田さんがシュンと縮こまりながら謝罪の言葉をもらした。いくら本気の力でなかったとはいえ、腹に沖田さん得意の突きをくらったときは、さすがに死ぬかと思った。沖田さんの巡回のない日は、稽古をつけてもらうのが日課であるが、毎回打撲やら傷を作ったりしている。本来ならば一番隊の隊長であるのだから、部下の隊士に稽古をつけるのでおれに構う暇もないほど忙しいのが正しい姿である。しかし沖田さんの場合、力の加減が上手くできずに誰であろうと剣を握るとボコボコにしてしまうから、誰も沖田さんには稽古を頼まない。
「すみません…次こそ加減を覚えます」
「そうしてくれると助かります」
それでもおれが沖田さんに稽古をつけてもらうのは、新選組随一の剣の使い手と謳われる沖田さんから学べるものが大きいからだ。沖田さんに稽古をお願いする物好きなんかは、おれくらいだろう。
「ねぇ、鉄くん」
「なんすか?」
「初めて会った時のこと、覚えてますか?」
沖田さんがふいに口を開いた。ゴロリと寝返りを打って沖田さんの方へ体を向けると、懐かしそうに笑みを浮かべていた。
「ほら、新選組に入隊してわたしのことを」
「ぼす!」
「『のす』ですけどね」
おれが無理を言って新選組に乗り込んで、沖田さんと試合して完膚無きまでに負かされて。あれからまだ一年しか経っていないというのに、もっとずっと前のことに感じるのは、この一年間で本当にいろんなことがあったからだろう。おれもようやく一歩ずつ進め始めた気がする。
「もちろん忘れてないっすよ」
「わたしもうかうかしていられませんねぇ」
沖田さんはそう言うと、一緒になっておれの横にゴロリと寝転んだ。
「おれが沖田さんに勝つまで誰にも負けないでいてくださいよ!」
「あはは、楽しみですね」
ケラケラと笑う沖田さんに、明日には早速勝ってるかもしれないしと言ったら、「その前に鉄くんは、まず落ち着いて行動することを覚えないといけませんね」と言われてしまった。