その他3

□かわいいひと
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キスがしたい。
とびきり甘くて、優しいキスを。
本人に向かっては決して言えない、私だけの秘密の願い。

いつもは美希が眠るソファに座って、読むともなしに流し読みしている雑誌から目を離して顔を上げれば、ほらそこにはあの人が。

どうしたの?なんて小首を傾げて聞かないでほしい。
あなたへの気持ちを自覚してから、私はまともに目を合わせる事さえできなくなってしまったのに、そんな仕草をされたら見ずにはいられないのだから。

できるだけさりげなく、何でもありませんと返して、逃げるように目を伏せる。
素っ気なさすぎただろうか。
気にしても今更仕方ないけれど、優しいこの人に悲しい顔はしてほしくない。
きっと春香なら、照れも気負いもなく、楽しく話したりできるのだろう。
相手に悲しい顔なんて、一時もさせる事なく。
頑なだった私にさえ根気よく接してくれたのだから。
私の、きっと初めてできた親友。
恥ずかしいから本人に言った事は、まだないのだけど。

そういえば春香は、今私が惹かれてやまないこの人に、少し似ているかもしれない。

名前の通り、小さな鳥のように愛らしく、時々私より幼い顔で笑う、年上の人。
普段はみんなのお姉さんなのに、時々ちょっとドジで、でもそんな所も可愛く見えてしまうあたりが、特に。

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