色んな妄想
□苦悩する私に、キスを
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綾部は今にも泣き出しそうな顔をして滝夜叉丸に口づけた。
不安に揺れた双眸がひどく近い場所にあって、滝夜叉丸は怒鳴る気も失せる。
不安だったのだろうか。綾部も。
このタコ壷の中で、いつ滝夜叉丸が来るか、もしかしたら来ないかもしれないと、不安になって踞まっていたのだろうか。
「っ…話を…、まともに話も出来んのかお前は…ふ、んんっ」
やっと離れた唇が、再び滝夜叉丸の口を塞いだ。
ぬるりと滑り込んできた舌が、歯列を割って口腔にまで侵入して来る。
今この身を抱きしめているひんやりとした腕からは想像も出来ないほど、綾部の舌は熱かった。
貪られるような口接けに滝夜叉丸の息があがる。
背筋をなぞる指先に肩が跳ねて、思わず内股に力を込めたら綾部の腰もビクリと跳ねた。
首のうしろに回された手の平が、絞め殺しそうな強さで滝夜叉丸を固定して逃がさない。
「大好きだから、私の全部を滝夜叉丸に上げる。滝夜叉丸は?滝夜叉丸は、私にくれる?」
滝夜叉丸の全部をくれる?
懇願によく似た言葉に、滝夜叉丸はぜぇぜぇと息をつきながら綾部を見詰めた。
相変わらず不安に揺れた目。
けれどその向こうには、滝夜叉丸がなんと言おうが、全てを食らい尽くそうとする雄の本能がちらついていた。
情欲に濡れた綾部の目に映る自分の姿は一体どうなっているのだろう。
「私、は…」
口を開いたら、綾部の顔がズイッと近付いてきた。
鼻先が触れて、吐息も触れた。
聞きたくない言葉が出たら、そんなものは即座に飲み込んでやると言いたげに。
滝夜叉丸は、思わず肩を揺らして笑った。
悩んでいた己がバカらしくなった。
背中は押されなかったが、彼は確かに滝夜叉丸の足首を掴んで引きずり込んだ。
体を拘束して、滝夜叉丸に一本だけしかない道を示している。
ずりずりずりずり。地面を引きずるように、滝夜叉丸を求める姿はさながら獲物を巣穴に持ち帰ろうと奮闘する蟻のようだ。
突然笑い出した(しかも高笑いだ)滝夜叉丸に、困惑したように首を傾げる綾部。
笑いをおさめて綾部を真っ直ぐ見詰めてやれば、自分を拘束した男は警戒の色を強めた。
滝夜叉丸は目を細めて、きっと綾部がなによりも待ち遠しかったに違いない言葉を唇にのせた。
「…くれてやる。有り難く受け取れ、喜八郎」
目を見開いた綾部が、次の瞬間には世界で一番幸せなのは自分だとでも言わんばかりに、満面の笑みを見せた。
さっきまで我が物顔で蹂躙していた滝夜叉丸の口にちょんと口の先を当てて、上目遣いで顔色を窺って来る。
滝夜叉丸は苦笑して、薄く口を開けた。
綾部はこれまた幸せそうに破顔して、芽吹いたばかりの花を労るような慎重さでそっと深く口接ける。
優しく口腔を舐める綾部の舌は、やっぱり熱かった。
悩む隙もないくらいに愛して
End
ダメだ。
何がしたいのかさっぱり解らない。