三國無双
□恋のから騒ぎ
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「御前は女を落とす時、どうする?」
薮から棒に何を言い出すのかと思いながらも、曹操は考え込んだ。
「ふむ。文や、美しい装飾品でも送るかのう…」
「では、女が男を落とす時はどうする?」
「……儂が知る限りでは…皆、口々に儂を誉めそやし、服を着飾り、美しさに磨きを掛けおるな。………………………………………………!!」
言い終えてから、思い至った予測に曹操は眼を瞠った。
夏侯惇が頷く。
「俺の予感では……」
「張コウは友誼でなく恋仲になりたがっておると…」
二人は無言で視線を交わし、殆ど同時に溜息をついた。
*****
所変わって、城の調練場。
日課の素振りを二刻きっちりやり切って井戸の水で顔を洗っていた夏侯淵は、不意に鼻孔を擽る甘い花の香りに気付いて振り返った。
「おや、見付かってしまいました」
困った様に眉尻を下げて肩を竦めるのは、蝶舞い花舞う魏の華麗なる将・張コウであった。
一方夏侯淵は背後の気配がやはり張コウだった事に破顔する。
「よぉ!張コウじゃねぇか」
ニカッ!と夏の太陽を思わせる明るい笑顔を見せれば、頬をぽっと朱くした張コウが口許を覆った。
「?」
「あの…将軍の笑みは、本当に美しいですね」
「お?ありがとよっ!」
しどろもどろな張コウを訝しみながらも彼なりの賛辞である言葉を有り難く受け取る夏侯淵。
再び屈託なく彩られた笑顔を見せられ、張コウは安堵にも似た吐息と共にふわりと微笑みを返す。
「ときに将軍、これからお暇ですか?」
「んん?おぅ、予定はねぇな」
「あの、それでしたら…もしよろしければ、一緒にお茶でも如何でしょうか」
「おぅ?茶か?」
「はい。城下に、美味しいお茶と茶菓子を出すと評判の甘味処があるという話を伺いまして……将軍さえよろしければ、と」
まさに恋する乙女の眼差し。
不安げな様相で夏侯淵に乞う姿は儚く、見る者の庇護欲を誘う。
普段自信に満ち溢れた鮮烈な空気を纏う彼からは想像も出来ない仕種だった。
夏侯淵はと言えば、そんな張コウを知ってか知らずか人好きのする満面の笑顔で、
「おぅ!いいぜ!!」
と快諾した。
途端に張コウはパッと表情を明るくして、花が咲き零れる様な微笑を薄い唇に湛える。
「有難うございます、将軍」
「礼なんて言うなよ。御前に誘われて行った店に間違いはねぇからな!」
「そう言って頂けると、私も案内のし甲斐がありますね」
「へへっ、楽しみにしてるぜ」
そうして一刻後に正門で落ち合おうと約束して別れた二人を、遠くの物影から見詰める眼が二対。
「張コウめ…」
ぎりりと歯軋りする夏侯惇。 その頭の上で頬杖を着く曹操の唇が、にやりと弧を描く。
「張コウ…中々やりおるな」
「何を感心している!?淵にもしもの事があったら…!!」
「夏侯淵も子供ではない。雰囲気に流されて相手を傷つけるくらいなら、真の胸の内も明かそう。心配はいらんのではないか?」
「しかしだな…っ」
「義父上、夏侯将軍?何をしてらっしゃいますの?」
「「!!」」