三國無双


□◆熱帯カタストロフィ
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 魏延は取り敢えずミニサイズの弁当を籠に入れ、ナポリタンを手に取る。
 諸葛亮を見上げ、再度了承の頷きを貰うとそれも入れて、隣の蕎麦も選んだ。

 山菜とろろ蕎麦。

 諸葛亮が、以前から少し気になっていた商品だった。
 知っていたのだろうかと思わず微苦笑を浮かべる諸葛亮。

 それから新発売の地域限定シュークリームと牛乳プリンを取って買い物は終了した。





 熱帯夜の気配を感じさせる温い外気に再び潜り込めば、僅かに肌が汗ばむ。
 部屋に戻った諸葛亮は真っ先にエアコンのスイッチを入れた。
 魏延は早速リビングのテーブルに今しがた買い込んで来た弁当を広げている。

「麦茶飲みますか?」
「貰ウ」

 諸葛亮は甲斐甲斐しく魏延の世話を焼く。
 口には出さないが、諸葛亮が魏延を見る目には惜しみない慈愛の色があった。可愛くて仕方が無いと言うように目を細めて見詰める姿は、子を思う母の様にも、身も心も許し合った恋人の様にも見える。
 関係的には後者であるが、諸葛亮の心情で言えば前者でもあるのかもしれない。

 ものの数分で弁当を平らげた魏延は、山菜とろろ蕎麦に手を伸ばした。
 がさがさと準備しながら「わさびハ平気カ?」と聞いてくる。「大丈夫です」と答えれば、魏延は付属のわさびを容赦なく全て捻り出した。

 作り終えた蕎麦の容器を、一番に諸葛亮に差し出す。

「おや、いいんですか?」
「諸葛亮、コレ、気ニシテイタ…」
「やっぱり気付いてましたか」
「食エ」

 魏延の気持ちが嬉しくて、諸葛亮は微笑んだ。
 テーブルから身を乗り出して、向かいに座る魏延の唇に悪戯めいたキスを贈る。

「ありがとうございます」
「ヌ、ゥ……」

 照れた魏延が上気した顔を背けるのを満足げに見遣り、諸葛亮は蕎麦を啜った。
 山菜の歯ごたえととろろの柔らかい口当たり。露の風味を楽しんだ後に鼻につんと来るわさびの辛味が中々良い。

「これは中々…」
「旨イ、カ?」
「とても。……たかがコンビニと侮れませんね」
「コンビニ弁当モ、悪ク無イ」
「そのようですね」

 一口二口と咀嚼して、蕎麦を魏延に返す。

「モウ、イイノカ」
「貴方が食べて下さい、私は大丈夫ですから」




 ずるずると蕎麦を啜る音が、静かな夏の夜に響く。
 こんな夜中にテレビも付けず、こうして二人で夜食と洒落込むのも乙な物だ。




 それから暫くして再び巡って来た睡魔が、諸葛亮を眠りに誘った。
 眠たげな瞼が今にも閉じてしまいそうで緩くかぶりを振ると、魏延がその様子に気付いて傍に寄ってくる。

「眠イカ」
「少し」
「済マヌ、俺ガ、起コシタ」
「お気になさらず…」

 諸葛亮は言いながら、魏延に凭れた。
 筋肉質な固い感触にほっと息をつくと、魏延の腕がいとも容易く諸葛亮を抱き上げて膝の上に降ろされる。
 促されるように厚い胸板に身を寄せると、眠気よりも別の何かが芽生えた。腰が疼く。

「戻ル、カ」

 諸葛亮を抱いたまま立ち上がった魏延が寝室へ歩を進める。
 暗い部屋のベッドに優しく降ろされて、諸葛亮は魏延の首に腕を回した。
 それを合図に、魏延は野性の顔をちらつかせて諸葛亮に覆いかぶさる。


 
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