三國無双


□◆熱帯カタストロフィ
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「噛ムナ」
「ふっ…んぁ…!」

 それを見咎めた魏延が唇をこじ開けて舌先を捩込む。
 声を抑え切れずに高く鳴けば、満足げな様子で口の端に笑みを載せるのが解った。

「あ、ぁ…魏延…っああ…」

 堪らず上げた声は熱に掠れて喘ぎに変わる。
 それを頃合いと見たか、やがて魏延の指先の律動が穏やかになって緩んだ入口を大きく広げた。

 次いで襲い来る凄絶な感覚。

 焼け付くような質量の熱に真下から突き上げられて、諸葛亮は悲鳴を上げた。

「あぁぁ…っ!」

 犯し殺さんばかりの激しさとは正反対の優しいキスが、顔中に落とされる。
 目尻から零れた涙が頬を伝い、魏延はそれを一滴残らず舐め取った。

「ぎ、えん…」

 荒い吐息のさなかに諸葛亮が囁く。
 耳朶を擽る甘やかな声音に、魏延は自身が更に高ぶるのを如実に感じ取った。

「もっ、と…私を、殺す程に…っ」
「諸葛亮…」

 白い喉が露になる。
 さぞや、朱を散らせば映えるだろう。


 食い殺したい、と。

 魏延は諸葛亮を押さえ付けて強く腰を叩き付けた。
 他に汚す者の無い、自分だけに与えられた男を思う様蹂躙する悦楽が体を支配する。

 本当に、このまま、犯し殺してしまえたら。

 危うい均衡が、ぐらついた。
 目の前の美しい獲物を、喰らい尽くして嚥下して、その全てをこの身に収めてしまいたいと。

 それが愛なのか、判別が付かない。
 唯解るのは、泣きたくなるほどに焦がれて止まないこの心だけ。




 願わくば彼を殺すのは己だけであれと。
 刺し違えるように眠りに付きたいと。
 貪り合った最後の瞬間に触れ合った肌という肌が、熱く痺れて焼け落ちるようだった。











*****

 時計の針は午前二時を回った。
 
 あの後温いシャワーを浴びてリビングのソファーに座る頃にはすっかり眠気も飛んでいて、さぁどうするかと思案したのは言うまでもない。

 魏延に自身の髪を拭いてもらいながらテーブルに目を遣れば、食べ忘れていたシュークリームがぽつんと残っていた。

「ああ、忘れてましたね」

 腕を伸ばして袋を掴むと、後ろから魏延がひょいと取っていく。
 袋を開けて返す魏延に、つくづく自分達は互いに甘いと諸葛亮は思った。



 愛しているのだ。
 きっと、愛だけで殺せるくらいに。

 狂った様な性交の後は、必ずと言っていいほどに考える。
 
 例えば、夜食を二人で突く時。例えば、こんな風にシュークリームを食べる時。


 怖いくらいに穏やかな時間を過ごしていると、それが弾け飛ぶ様に覆る瞬間がたまに酷く不安になる。
 隠し切れない二面性が、獣染みた凶暴さを秘めて顔を出す。


「食べますか?」
「ン、」

 いつか、本当に彼に殺される日がこようとも。
 今は唯ぬるま湯に浸かるように、魏延との生活を楽しむのも悪くない。


 差し出したシュークリームにかじりつく愛しい獣の首筋に、諸葛亮は有りっ丈の慕情を込めて小さくキスを贈った。




END

アトガキと言う名の懺悔室。
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