三國無双
□◆熱帯カタストロフィ
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真夜中の事。
キッチンから聞こえる物音に気付き、諸葛亮はベッドから起き上がった。
眠りに落ちるまでは隣にいた筈の魏延がいない。諸葛亮は物音の主に当たりを付けて一人くすりと笑う。
するりと、生温い空気の中に滑り込んで魏延を探した。目を遣ったキッチンから、橙色の光が煌々と洩れている。
ごそごそと冷蔵庫を漁る大きな背中に笑いを堪えて、諸葛亮は魏延の背後に忍び寄った。
そろり、そろりと。
指先が触れるまで後僅か。諸葛亮は魏延の両肩にぽんっと手を置いた。
「お腹でも空きましたか?」
「!!…諸葛亮」
一瞬びくりとした体が、諸葛亮の声を聞き留めて振り返る。
悪さが見つかった子供の様に目を泳がせる魏延を堪らなく愛しく想い、諸葛亮は優しく頬を撫でてやった。
「腹ガ、減ッタ…」
胃の辺りを抑えて申し訳なさそうに呻く魏延。恐らくは眠る諸葛亮を起こしてはいけないと、冷蔵庫を漁り一人で空腹を何とかしようとしていたのだろう。
そんな魏延がまた可愛らしくて、諸葛亮はくすくすと肩を揺らす。
「そうですか。……ただ、今日の夕飯で殆ど食材を使い切ってしまいましてね…」
魏延が頷いた。
冷蔵庫を見れば解る。麦茶と味噌と牛乳以外何も無い、眩しさばかりが際立つ真っ白い内部が隠れる事なく晒されていた。
よくぞここまで見事に使い切るものだと感心してしまうが、それはやはり、この賢い男に掛かれば朝飯前なのだろう。
しかしそんな事より今はこの空腹をどうにかしたい。
魏延は切ない溜息を口腔内で噛み殺した。
それに目敏く気付いた諸葛亮が、顎に手を当てて思案し始める。
「では、今からコンビニでも行きますか」
「良イノカ?」
先程までの消沈振りは何処へ投げ捨てたのか、犬が尻尾を振るが如く目を輝かせた魏延に諸葛亮は優しく頷いてやった。
「ええ、食材が無いのも私の落ち度ですし、たまにはこういうのも良いでしょう」
着替えてきなさいと促して、嬉しそうに寝室に向かう後ろ姿を眺める。
確認した時計は零時を回っていて、彼の胃を満足させられるだけの物が残っているかと心配になった。
*****
最近越して来たばかりの新築のマンションの周りは、様々な店が密集している。
スーパーやデパートは勿論、多種多様なブランド店で賑わうショッピングモール。
駅も徒歩数分で到着する。
その中でも一番近いのはコンビニで、マンションを出て道路を挟んだ向かいに建っているのだ。
足を踏み入れた店内には、店員が二人と雑誌を立ち読みする若い男が居るだけだった。
一直線に弁当コーナーに向かって行く魏延の後を、黒いスラックスのポケットに片手を差し込んだ諸葛亮がゆっくりと追い掛ける。
やはりと言おうか、品揃えは余り宜しくない。
ご飯物は殆ど売切れ、サイズの小さい弁当が申し訳程度に置いてある。
その隣には蕎麦やパスタ系が幾つか残っていた。
「ヌゥ…」
しゃがみ込んで悩む大柄な男に、明ら様に怪しげな目を向けてくる店員を一睨みしてから諸葛亮が隣に並ぶ。
「品は薄いですが、好きなだけ選んで良いですよ」
「本当カ?」
「ええ」