三國無双
□酒に酔うなら
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穏やかな日差しに瞼を擽られて、馬超は緩やかに覚醒した。
見慣れぬ天井を暫く眺めて、此処が己の部屋ではないことを思い出す。
思い出して、額に手を当てた。
―――やってしまった。
昨夜の失態を思い起こし、寝ぼけていた頭が急激に冷めていく。
よもや絶大の信頼を寄せる大徳の、股肱の将と褥を共にしてしまうとは―――。
珍しく酔いに任せた気まぐれの行動が、こんな大惨事を招いた事が馬超自身信じられない。
(……誘ったのは、やはり俺…という事になるのか?)
いやいや先に誑かして来たのはあの男だ。
一人思案する馬超だが、隣で諸悪の根源がそれを楽しげに眺めているのに気付いていない。
「朝からお忙しそうですね、馬超殿」
「!!」
忘れていた、とばかりに目を瞠る馬超に、小鳥の囀る朝よりも爽やかな笑顔を惜し気もなく湛える趙雲。
「後悔なさいましたか?」
まだ上半身が裸で有ることが生々しい。
馬超は意地悪げな趙雲の問いを無言で一蹴し、怠い体を無理矢理寝台から引きはがす。
「ぅっ…」
途端に腰から尻にかけて走る鈍い痛みに顔を顰めた。趙雲が慌てて背中を支え、無理をなさいますな、と窘めた。
「誰の所為だ、誰の…」
「ええ勿論、喜ばしくも私の所為ですね」
「その満足げな顔を蹴り飛ばしてやりたい」
「嫌ですねぇ…昨夜散々暴れて存分に蹴ったでしょう?子供みたいに嫌々して、宥めるのが大変でしたよ」
「死ね」
「私が死んだら、貴方の大切な劉備殿がさぞかし哀しまれましょう」
「…………性格悪いなお前」
げんなりと溜息をついて寝台に肩肘を付く。
「自分を飾る必要がありませんからね。貴方も、普段の堅苦しい話方よりも、今の方が貴方らしい」
いつの間にか崩れていた口調を指摘されるが、今更直す必要も気力も無い。
馬超は趙雲の晴れやかな顔を見上げて、やっぱり蹴りたい、と目を眇めた。
「……して、馬超殿」
「なんだ」
「醒めましたか?」
「…………………………」
胡乱げな眼差しを向ければ、趙雲は思いの外真剣に見返してくる。
馬超は諦めにも似た気持ちで目頭を抑えた。
「好きにしろ」
「っ!!」
投げやりな返答を応と取った趙雲が目を丸くして、嬉しげに目尻を下げる。
「お慕いしております!!」
「くっつくな欝陶しい」
きっと尻尾が生えていればさぞや豪快に振り回しているだろう趙雲の熱い抱擁を片手で制しながら、馬超は前途多難な予感に胸中で嘆息した。
(何をやってるんだ俺は)
自嘲の念が絶えない。
元はといえば売り言葉に買い言葉の様な、子供染みた挑発だったのだが。
ただ、親の手を縋る幼子の様に馬超にしがみついて切なげに「馬超殿」と呼ぶ声が、ただひとつ鮮明に鼓膜に張り付いて離れないのは事実。
惚れた腫れた以前の問題だと馬超自身自覚していたが、彼の腕の中はひどく居心地が良いのだと、一人言い訳の様に締め括るのだった。
余談だが。
後日廊下で擦れ違った臥龍が馬超に意味ありげな一瞥と含み笑いを向けたのは、気のせいではない筈だ。
END?
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アトガキ