短編4

□さよなら
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俺が気付いてないと思ってる?


お前が思う程俺は鈍くないよ?


お前の僅かな心の変化に気付いてしまう程俺はお前に溺れているんだ…


『ただいま』


何時ものように寝ている俺の額にキスを落とし


『ごめん』


と呟き部屋を出ていく

部屋に残ったのは


甘い女物の香水の香りと…


泣きそうな俺の心…


きっと…


彼は俺には何も言わない


ただ…



目が覚めると俺に


『愛してる』


と嘘を吐き


『しよ?』


と精を吐き出すんだろ?


…………



………



……








今夜で



終わりにしよう…



ヒヤリとした床に足を下ろし


重い重いドアを開け


恋人の居る部屋の前まで行きドアのノブに手をかけた


「んっ、俺も……愛してるよ」



何かが弾けて全てが崩れていく



「また明日…お休み」


また明日…



ポタリ


ポタリ


と崩れた場所から滴が零れ床に小さな水溜まりを作る



さよなら…



たった四文字が言葉に出来なくて


唇だけが形を作る



ノブにかけていた手をゆっくりと離し自然とベランダに足が向く



好き…


大好き


と初めてキスをした場所



窓を開けると風でカーテンが揺れる



見上げると空には星が輝き、まるで子供達を見守るように輝く月



『手を伸ばせば掴めそう…』



伸ばして掴もうとすれば手は宙を舞う


掴もうとすれば宙を舞う


まるで…お前のようだな?


一歩


一歩


足を進める



冷たい風が頬を撫でる


そして……



『ユノ君!!!!!!!』



最後に見た君の顔は…





もう思い出せない…

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