大好きです、レッドさん!

□8話
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せっかくシロガネ山に行ったのに、もう行けなくなった。
理由は重々承知している。
先日の一件だ。


レッドさんと、多少一方的ではあるけれど、そこそこ仲良いつもりだったのに。
儚い希望を粉々にされた。
ものの一瞬で。


もうやだ。
頭の中がぐちゃぐちゃで、何も考える気が起きない。


枕を抱えながらベッドに横になる。
かれこれ5日間はこの状態だ。
私の事を心配してくれるみんなですら、うっとうしい。
自分の気持ちが沈んでるからって手持ちに当たるだなんて。
トレーナー失格。
最低すぎて、自分が大嫌いだ。




ぶわりと涙が溢れて枕を濡らす。
傷みがひかないよ。
どうすれば、胸に埋まってる鉛がとれるんだろう。
苦しくて、息を吸う、呼吸すら、億劫で仕方ない。




プルル。
誰かからの着信で鳴ったポケギアを勢いよく床に投げ捨てた。
ポケギアを目に写すのが、なにより嫌だ。


何コールかしてからひとりでに音が鳴り止む。
ああ、耳障りな音だった。


外の世界と一切関係を持たず暮らしたい。
叶うわけないってわかってるけど。
でも、それでも。




思うだけならいいよね……っ!






『……ザン……』





ソッと近づいてきたザングース。
チラと顔だけ動かして見ると、控えめに差し出されたポケギア。


私はそれを投げたんだよ?
その行動の意味ぐらいわかってるでしょ!?






「いらない。」






苛つきを隠そうともせず吐き捨てた。
それでもザングースは退こうとしない。
差し出したままだ。
ボールから出てるハッサムや、ボールに入ってるバクーダたちは、心配そうに私たちを見てる。






「どっかやってよ、それ!!」


『ザン!』






首を勢いよく横に振るザングース。
何がしたいんだよ。


いくら無視してもひかないザングースに負けて、渋々受け取った。
履歴を見ろって事だと思うけど、グリーンさんなら登録解除してやるから。




ポチポチと履歴画面を確認すると、私のすべてがフリーズした。
脳が正常に動くことを拒否してるようだ。
私夢でも見てるのかな?
ありえないでしょ。


画面に表示されてるのは、ある一人からの複数の着信だった。
ついさっきのも、気づかなかったときのも、同じ人から。


なんで?
私に会いたくないんでしょ?
私と話したくないんでしょ?
思わせ振りなこと、しないでください……!




ボロボロ頬に涙が伝う。
ゆっくり私をあやすように背中をさすってくれたザングースに、力の限り抱きしめた。






「ふえ、ひっく、レッドさ、会いたい、よお……」






プルル、プルル。
震え、着信音を響かせたポケギア。
カタカタと震えが止まらない手で確かめると、『レッドさん』と記されてる。


出たいけど、怖い。
今度は何を言われて拒絶されるのかな。
ネガティブにしか考えない自分の思考を叱咤する。


行動しなきゃ、何も始まらない。
拒絶されてもいい、私から近づけばいいんだよ。


ぐし、と目をこすって通話ボタンを軽く押した。






「も、しもし。」


《……遅い。》






不機嫌さが滲み出てる声。
遅いって、出られるわけないじゃないですか!






《なんで、出ないわけ?》






何度もしたんだけど、俺。
まるで拗ねてるみたいな言い方に、思わず笑ってしまった。






《ともかく、明日、こい。》






自分の耳を疑い、貴方の言葉に、ただ脳内が支配された。
そんな事言われたら、もしかしてと期待する自分がいるんです。







世界ってやつは案外やさしかっ







(私に手を差し伸べて)


(途中で払うのだけはどうかやめて)







*


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