冥の泣きピエロ

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「なあなあ、どういう関係なんだよ!?」






蜂蜜色の柔らかそうなクセのある金髪を揺らしながらバンと詰め寄る蠍座に、氷河は微かに殺意を抱いた。
ミロに限ったことではない。
聖域再建のために残っていると、毎日毎時間のように同じ質問を氷河はされていた。
問いかける人物は違ってはいるが。
最初は星矢、次にアイオリア。
次から次へときりがなかった。


初めはなんでもないと答えをはぐらかしていた氷河であった。
が、しかし。
もう限界だ。
彼女、千景さんと自分がどんな関係にあろうと、他人が気にするものではない。
当事者のみが知っていれば良いことなんだ。
カッコつけてはみたものの、ただたんに氷河は千景に興味を持って欲しくないだけ。
小さいながらの独占欲。




俺、いつか嫌われないだろうか。
どうしよう、スゴくイヤだ。




無意識にため息をこぼす氷河にミロは無視すんな!
更に喚き始めた。
いい加減にしてほしい。
迷惑がっているのがわからないのか?



わかるはずないだろうな。
だってミロだから。





「ミロ、いい加減にしろ。氷河も教えても良いのではないか?」






ミロの肩に手を置きながら炎のような赤髪を揺らせたのは、氷河の師匠、カミュだった。
見た目とは反対に常に冷静さを忘れない彼は、今現在も例外ではない。


けれどカミュも千景の関係が気になっているのを、氷河は十分に理解していた。
長年共にいたからか、感じ取ってしまえる。




どいつもこいつも煩い。
俺が千景さんとどんな関わりがあろうとカミュやミロには関係ないのに。
何故それほど気にするんだ。


氷河はその答えをわかっていた。
千景が冥闘士だから。
ただそれだけ。


しかし、それだけのことであっても、聖闘士からしたら重大なのだ。
つい最近までは敵同士だったのだから。






「氷河……」


「俺と千景さんについて二人に教える義務があるんですか!?」






あまりにもしつこい二人に思わず氷河は大声をあげてしまった。
その声を聞き、何人かが集まる。


やってしまった。
今さら後悔しても遅いが。
ゾロゾロと列を成して現れたのは黄金聖闘士と義兄弟たち。
なんでお前らなんだ。
仕事はどうした。






「うるせーぞアヒルのガキ。」






赤い血のような眼をダルそうに細めながら氷河に言ったのはデスマスク。
その横っ面を凄まじい速さでカミュが殴った。
さすがに氷河も唖然。


改めて師匠は師匠バカだと思い知った。





「ってえ!!何しやがるカミュ!!」


「黙れ。貴方が氷河に対して言ったことを考えれば当たり前だ。」






小宇宙を高め、身体の周りに凍気を纏うカミュに冷や汗をかくデスマスク。
氷河は切実に思う。


頼むから、一人にしてくれ。




だがそうそう思い通りにいくはずもなく。
落胆を隠せないでいる氷河に一人、話しかけた。






「氷河って、あの女の人と仲良いの?」






男にしては可愛らしい顔立ちの瞬が問う。


かなり痛いところを突かれた氷河が小さく呻く。
答えにくい質問だったからだ。


氷河と千景はお互いに認識がある。
しかし離れてかなりの年月が経過しているので仲が良いとは言い難いのかもしれない。
そんな風に思ってるのはもしかしなくとも自分だけなのでは……


ネガティブの思考に足を踏み入れた氷河の周りをマイナスオーラが包み込む。






「ちょ、氷河!何そのマイナスオーラ!?」






瞬が声をかけるも応答はない。
いったい何をしたら元に戻るのだろうか。
アワアワと一部の聖闘士が慌てるなか、勢いよくバンと扉を破壊しそうな程強く開ける音。


入ってきたのは眉間に一筋の古傷がある、不死鳥座の一輝だった。


大きな靴音を響かせて、手に持った書類を突き出した。






「これは?」


「冥界からの書類だ。」






眼前に突き出された紙をいかぶしげに見たサガに、イラつきを隠そうともせずに答えた一輝。


手渡された書類を眺め、思わず絶句する。
これは……
ただ困惑の色をわかりやすく表しているサガの横から盗み見たミロの眼に飛び込む文章の数々。
そして、気になる単語があった。






「冥闘士の千景?」






その言葉に即座に反応した氷河は、サガから書類をひったくり、今にも泣き出しそうな。
情けないような表情を隠せないでいた。






It is already useless to cover
(隠すのはもはや無駄)

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