無重力アイラビュー

□5.ビッグバンは、突然に
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「しょう?さーもん、だめ?」




黙り込んだ俺を、申し訳なさそうに見上げる。




う…。
まぁ、サトシ君もわざと間違えてるじゃないし…。




かと言って、松本に非がある訳でもないのだ。
ただ、そういう呼び方もあるよと、教えただけなのだから。



「…ううん。ダメじゃないよ。温かいココア、入れて行こうね?」




彼が覚えやすいのなら、この際何でもいいやなんて。
人が聞いたら、親バカとしか言いようのない事を思ってしまった。




「ここあ、すき。」



ヘニャリ、力なく笑うと。
キッチンに向かう俺の後ろを、ポテポテ付いて来るサトシ君。




頭上でフワフワ揺れる毛糸玉が、なんとも可愛い。




「出来るまで、TV見ててもいいよ。」



サトシ君日課のエア釣りを、今日はまだ見てないもの。




棚からココアの袋を取り出しながらそう言えば、手元を見つめたまま小さく首を振って。




「しょう、もうすぐ、おしごと。」




だから、いっしょ、いたい。




「サ、サトシ君…!!」




思い掛けない台詞に、俺の手からポロリと転がり落ちるココアの袋。
それを隣でナイスキャッチした彼に、感謝の言葉を告げる間もなく抱き締めた。



“幸せ過ぎて恐い”って、今みたいな事言うんだと思う。
きっと、間違いなく。





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