蒼天の使者
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散々だ、と木の葉の里の長・綱手は己の方を叩きながら思う。
昼間、昼食を食べに食堂へ行けば甘ったるい匂い・・・否、臭いが充満していてその元を辿れば中忍、上忍の男共が屯っていてその中心には今人気者となっている天女様と呼ばれている姫宮可愛の姿。
以前、空から舞い降りてきた彼女は一般人として木の葉に住まわせた。言外で言えば、忍達に関わるなという意味でだ。
しかし、あろう事に彼女はその決まりを破り一般人は立ち入り禁止であるはずの食堂に入り忍達を誑かしている。
怒りを通り過ぎて、呆れてモノも言えない。
その時は忍達に自分の持ち場につけ、という事と姫宮に一般人は此処は立ち入り禁止だという事を告げたが、あれは絶対に聞かない。
ふぅ、とため息をつけば、ふと窓越しに大きく輝く満月が。
椅子から立って、近くで見ようと窓辺に立つ。部屋が暗くても、月の明るさで十分に明るかった。忍が動くには良くない日だが、風流としてはとても見ごたえがあった。
「静かな夜だな・・・」
渡る風が木々の葉を揺らす音と、虫の音しか聞こえない。
自主として、遠くから聞こえるはずの轟音が聞こえない。
何も、聞こえない。
そう思いしばらくの間黙って月を見上げていれば、その気配は突然背後に生まれた。
「まると月に恋い焦がれているかぐや姫のようですね、綱手様」
「・・・随分とロマンチックな事を言うな、カケルよ。お前がロマンチストとは思いもしなかったよ。明朝と共に、里の者に触れ回っておくよ」
綱手様にそう言われ、オレは肩をすくんで「勘弁してください」と言う。隣ではいのが小さく笑っていた。
いのめ・・・、後で覚えておきやがれよ・・・。
オレの言葉に、綱手様は鼻で笑うと椅子に座りオレ達を見る。すると、綱手様は火薬か何かを嗅いだのかオレ達を見て小さく尋ねる。
「任務帰りだったのか?ご苦労だったな」
「はい。ですが、上の忍達が使え物にならないから、必然的に私たちにまわってくるんですけどね」
困ったものです、とテンテンが大げさに両手を軽く広げてみせるが、全く困ったようには見えなかった。
使えない物と判断したのは、綱手様本人だ。
上忍がしなければならない事は暗部に任せ、出来そうな事は中忍以下に任せる。今の木の葉の現状を知った上での対応策。
否、解決策といった方が妥当かな?
「簡単でしたよ、アレは・・・」
「まぁ、そういうな。お前達が生き残っているだけでも感謝なんだからな」
「くの一達はどうなのですか?」
オレが尋ねれば、綱手様は小さくため息をついて口を開ける。
「一応は、任務に出している。だが、天女の件でまだ精神が揺れている。このままだったら、任務に支障が出るな」
「・・・・・・」
恋人を割って入ってきた女に捕られ、挙句の果てには男を自分の物のようにしている天女様。
流石、逆ハー補正がついているだけあるな。
オレは一人口角を上げて、微かに身震いをする。暇潰しだと思えば良いんだよな、時雨さん?
「それで、オレ達を此処に集めた理由は?」
「シカマル、んなの一つしかないだろう?」
「んなの分かってるよ。確認だ、確認」
ったく・・・、とぶつぶつ呟くシカマル。あ、機嫌損ねちゃったか?オレ・・・。
サクラはオレを見て、大きくため息をつけるし、いのは小さくまだ笑ってるし・・・。
「茶番はそこまでにしておけ、お前等。それで、本題に入ろうと思う」
「・・・・・・」
綱手様の言葉に、オレ達は顔を引き締める。
「・・・・・・分かりました。それでは、本題に入ってください」
オレ達の夜更けの密会は密やかに幕を開けた。
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