そのたいろいろ

□波打ち際にて。
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冬のヴァレンシア海岸は酷く寒かった。
何年も前に行った臨海学校で来たときは、たしか夏だったか。

「みんな、元気かな」

呟きは波の音に混じり、消えていく。

コテージのある砂浜まで歩いて、立ち止まった。懐かしい思い出が甦る。
あそこの波打ち際ではマドレーヌ先生がなまこで遊んでいたな。
あの大きな岩の裏ではショコラとオリーブが文鳥に囲まれていたし、あっちの森ではキルシュとアランシアがカエルグミを追いかけていた。

ああ、そう言えばキャンディがそこでガナッシュに告白?をしていたのも思い出した。
そしてガナッシュは高くそびえる岩の上でハーモニカを吹いていたっけ。

…あれ、回想は丁寧に音までも思い出して流してくれるのかな。
わたしの耳にハーモニカの音が入り込んでくる。
上に座っているのは、昔よりもずっと大きくなった、ガナッシュ。

「……、そんな、まさか…」
「…ナマエ、久しぶり」
「ほんとに、…ほんとに、ガナッシュ?そこに居るのね?」

心臓がばくばくと暴れ始める。
岩によじ登ると、上からガナッシュが笑って手を差し伸べてくれた。
消えてしまったらどうしよう…なんて思いながら、手を掴む。

ちゃんと、人の温もりが手のひらに伝わった。

「登ってこなくても俺が降りたのに」
「ほんとに居るか確かめるために、わたしから行ったの。…幻覚かと思った」
「酷いな、俺はここにちゃんと存在しているよ」

手をぺたぺたと触りながら会話をする。
密かに彼に寄せていた、淡い恋心がわたしの胸に再び広がった。

皆が集まっているのかと思って、きょろきょろとあたりを見渡すが他の皆は居ない。どうしてガナッシュだけが?
見上げて問うと、ガナッシュは「俺が会いに来ただけ」と言った。

「…わたしに?」
「お前以外にここに誰が居るんだい?」
「誰も居ないけど…うそ、ほんとに?」
「疑り深いな…ほんとだよ。会いたかったんだ」
「……嬉しい…」

かあっと頬が熱くなって、ほころぶ。
黒いローブと逞しくなった腕がわたしを抱きしめた。
わたしも腕を伸ばして、強く抱きしめる。
同時に口が開いた。

「「ずっと言いたかったことがあるんだ」」
「…先、どうぞ」
「…俺に言わせるのか…今更だけど、好きだ。俺の傍に、居てくれる?」
「わたしも、好き。大好き。喜んで居させてもらうわ」



寒くて、暗く悲しく揺れていたヴァレンシア海岸の波が、きらきらと輝いている。
まるでわたし達の再会と、幸せを喜んでくれているかのように。

Iloveyou,Forever

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