無双

□相愛性理論
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 『好き』と口にする度に、君への『好き』の気持ちが増えていく。


《相愛性理論》



 君は、『おはよう』と挨拶をするように私に『好き』と言う。
 君の口から自然に零れることば。
 私には真似できないよ。恥ずかしくって。

「ねぇ、宗茂」
「なんですか、元就公」
「君ってさぁ、挨拶をするように私に『好き』って言うよね」
「そうでしょうか?」

 ほら、君は笑顔で誤魔化そうとする。
 白々しいよ。

「そうだよ」
「私は、いつでも本気ですよ」

 うん、それも知ってる。
 最初は疑ってたけど、いつだって君の目は真剣に私を見てくれていることに気づいた。
 それから、君が好きと言う度に心臓を直接掴まれたみたいにいい気分じゃない。

「その割には、表情が変わらないよね。君は」
「あまり表情に出ないたちなので。
 でも、元就公も私に『好き』って言われても表情が変わりませんよね」

 だからおあいこです。と綺麗に笑う君は、本当に綺麗だと思う。見惚れてしまうくらい。
 勿論、君には言わないけど。
 それにね、宗茂。
 別に私も君から『好き』って言われて何も感じない訳じゃない。
 むしろ、『好き』と言われる度に照れ臭くて、なんかいたたまれなくなって、どうしようもないんだ。
 普通に振る舞うのにも一苦労だよ。

「でもですね、元就公」
「なんだい、宗茂」
「たまには、貴方から私に『好き』と言って頂けたら嬉しいのですが」

 無理だよ宗茂

「ごめん、無理」
「即答ですか?」

 情けない声をあげても、綺麗な顔で見惚れてしまう君。
 君には申し訳ないけど、私から君に『好き』とは言えない。
 別に、君が嫌いと言う訳じゃないんだ。
 言い慣れないと言うか……
 君に『好き』と口に出して言う度に、君への『好き』の気持ちが大きくなってしまう。
 それにきっと、君に『好き』と言うときの私の顔は、凄く情けない顔をしていると思う。
 君に会うまで、年下にここまで動揺させられるとは思ってもいなかった。
 どちらかと言うと、するがわのほうだったし。

「駄目ですか?」

 私の両頬に手を添え、こちらを見て優しく微笑み甘く低い声でねだる君。
 それは、反則だ。
 顔を寄せ、額に君の唇が触れる。

「言ってください、お願いします」

 顔が、暑い。
 両頬を固定されていて、顔を反らすことが出来ない。

「……き……よ」
「何か言われましたか?」

 嘘つき、聞こえてたくせに。
 顔がニヤついてるよ。
 お互いの息づかいが肌で感じられるくらい近い距離にいるんだ、聞こえない訳ないはずだ。
 でも、君はどうしても私に『好きだ』と言わせたいらしい。
 言わないと、解放してくれなさそうだし。
 観念して言うしか無さそうだ。
 変な顔してたとしても、無理矢理言わせた宗茂、気味が悪いんだ。

「好きだよ」

 君から視線を外し、言ってみる。
 あぁ、やっぱり顔が暑くなる。耳の裏までそれを感じる。
 いま、どうしようもなく情けない顔をしてるんだと思う。
 チララと君を見る。


……おや?


 チラリと宗茂の顔を見ると、予想に反し顔を赤くして固まっていた。
 そして、動いたと思ったら君の唇が私の唇に触れた。
 微かに触れるとそのまま彼の腕の中に抱きしめられる。

「思ったよりも、破壊力がありますね」

 でも、嬉しいです。そう言う君の顔も、真っ赤になっているのだろう。
 おあいこだ。そう思うと、少しだけ気持ちは軽くなるが、やはり私は宗茂が『好き』なのだと自覚させる。
 このまま言い続けたら、きっと『好き』で潰されてしまう。
 それでも、君へのこの感情なら潰されてしまっても良いと思う自分もいる。



 だからね、宗茂。
 たまには、たまには私から『好き』というよ。



 たまにだからね。








20110504

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