無双

□翡翠
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 いつかじゃなく
 いまがいい


《翡翠》


 以前、元就公に「君は挨拶をするように私に『好き』というね」と言われた。
 あのときは、そうですかと返したが、内心は悔しかった。
 元就公とは祖父と孫ほど年齢が離れ、身分も一国の主と主に仕える城持ちの家臣と差がある。
 自分がどんなに望んでも手に入れられない人。
 それでも、気持ちを受け入れて貰えた。それだけで十分幸せだった。
 そんな矢先の出来事だ。
 自分は、『好き』だと言う気持ちを軽々しく口にした覚えはない。
 ただ、顔を赤くしたり動揺することで貴方に子供だと思われたく無かった。
 しかし、それが仇になるとは思わなかった。 
 私だって餓鬼じゃないと言いつつも、まだ若輩で感情がすぐ暴走してしまいそうになる。
 貴方に『好き』だと言う度に、貴方への想いが大きくなる。
 それでも、終わりが見えている貴方とのこの時間。
 明日いなくなってもおかしくない貴方に、言える時に言うしかないのだ。
 そうでないと伝えきれぬまま、『さよなら』になってしまう可能性がある。
 だから伝えられる限り、私は貴方にこの思いを伝え続ける。
 いつかじゃなく、今この時に。



「元就公」
「なんだい、宗茂」
「貴方が好きです」

 腕の中の貴方は、可笑しそうに「それは、何回めだい?」といい私の背を子供をあやすように叩く。
 餓鬼じゃないといっても、貴方は子供扱いを止めない。
 首筋に顔を埋め、また『好き』だと口にすると、やはり笑われた。
 自分の言葉は、どれだけ元就公に伝わってるだろうか?
 こういうとき、凄く不安になる。
 自分の言葉は、全く元就公に伝わって無いのではないかと。
 だからこそ、くどいと言われても『好き』と言う言葉を口にする。


 いつか元就公、貴方との時間が終わるその時まで、何度でも。









20110504

・大分短くなりました。
 ブックを誤って消してしまった事に気づいたとき、死ぬかと思いましたが……
 イメージは、一青窈さんの『翡翠』です。
 はい、雰囲気ないですが。
 宗視点だと、薄暗いのはやはり終わりが見えているからか?
 次は、ラブラブ目指す。読んでくださり、有り難うとございました。

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