無双

□お久しぶりの合言葉
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 宗茂が、見聞を広げるためと言って、柳川を出て早一年。
 便りはなし、数ヶ月前に本を借りに来た清正から、今川義元公と伊達政宗を巻き添えに蹴鞠にふけっていると聞いたきりだ。
 便りはギン千代の元にも届いてないらしく、清正から聞いた話を伝えると、体から電気が走っていた。
 お茶を運んできた輝元が涙目で、何があったのか聞いてきたのだから、殺気もだだもれだったのかもしれない。

 心配してない訳じゃない。
 宗茂は、何事もそつなくこなすタイプだが、肝心な所でどこか抜けている。
 だから、たまに生きているかどうか気になり、遠方に思いを馳せるときがある。


―清正や他の子達に迷惑をかけてなきゃいいけど……


 どちらかというと、宗茂本人よりも、彼の性格で起こる大小の騒動に巻き添えを喰うだろう者たちへの心配の方が多いかも知れない。

 それはさておき。

 宗茂が旅にでて今まで、たまに思い付いたときに行く宛のない手紙を書いている。
 内容は、本当に些細なことで、今も『たまには帰ってきなさい』と書いていた所だ。
 本当にたまになため、十通あるかないか位だ。
 こうやって届かない手紙を書くのもなんとなくこそばゆい気分になる。 まあ、見せることはないと元就は、近場にある本に挟む。
 それを、高く積まれた本の塔の上におくと、少しだけ散歩に出ようと部屋を後にした。




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