09/25の日記

00:04
クロニクルくる2nd
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 時間の流れを川の流れに例えるならば
 そこに浮かんでは消える泡たちは
 まさしく人の「命」だろう……


クロニクルくる2nd
〜再動〜


 向こう岸が見えぬほど幅広い川が流れる世界、この世界が芙蓉の元いた世界だ。
 この世界には何もない、ただ川が流れているだけだ。
 その川岸で幼子たちを牛や馬の頭に人の体を持ったモノたちがあやしており、時折古く煤けた布をかぶった船頭が渡す船が向こう岸と行き来している。
 此方の世界に戻ってきてから、芙蓉はずっと川の水面に浮かぶ泡を眺めていた。
 泡の中には、芙蓉の良く見知った者たちがいた。
 同姓同名の異なる姿の人が移ることもあったが、芙蓉が積極的に見ようとしたのは、やはり自分がよく見知った人物達が映るものだった。
 以前誰かが言っていた、泡の中に広がる世界は「あったかもしれない世界」もしくは「誰かが夢見た理想の世界」だと。
 それを裏付けるように、泡の中に映る映像は一つ一つ異なる世界を映していた。
 出会うはずのものが出会わなかったり、その逆で出会わないはずのものが出会ったり、敵になり、味方になり……まるで万華鏡のように世界が広がっていた。
 その様子を眺めることが、芙蓉の楽しみの一つであり、そしてその泡の中の世界で時折見せる幸福な世界を見つけることが。

「楽しいですか?」

 おっとりとした声音に、芙蓉はそちらを見る。
 そこには、穏やかな雰囲気を纏った長身の男が彼女に笑いかけていた。
 男はこの河原周辺を治める一族の長子で、「ツキ様」と呼ばれていた。
 芙蓉に近づくと、ツキはのんびりとした口調で「よろしいでしょうか?」と彼女の隣に腰を下ろした。
 優しい、金木犀の薫りがした。ツキが好んで使う香の薫りだ。

「芙蓉さん、また行かれるのですか?」

 芙蓉は何も言わない。
 ただ、ツキに向って静かに頷いた。
 それを見て、ツキも少し悲しそうに眉を寄せると、そうですか……と呟いて芙蓉の向こう、別の人影に目をやった。
 巫女装束を身に纏った女性が、やはりやんわりと笑っていた。

「来てますよ……」

 ツキの視線を追い、芙蓉はそちらを見る。
 そして、立ち上がるとツキに行ってきますと言って芙蓉は女性の方へ走っていた。
 その背中を見送り、ツキはぽつりと呟いた。

「行ってらっしゃい芙蓉さん。」







《クロニクルくる再始動》


 とある川から芙蓉ちゃん再出発の話。
 secondの前哨戦ということで……
 


 

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