庭球★
□ブン太の災難
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「お前のせいだからな。」
俺はこの帰り道、ずっとコイツに文句をたれていた。
「部活に来るななんて言われたのは初めてだ。」
幸村に、今日の部活の出席を禁止された。
というのも、時間はさかのぼり昼休み。
セミがうるさい。
俺はアイツと、いつものように気だるい罰掃除の時間を裏庭でやり過ごしていた。
「お前さー。」
ミーンミーン…
「えー?何ー?」
おっ?聞こえねぇのか?
言っちゃお、言っちゃお。
「何か最近胸デカくなったんじゃね?」
次の瞬間俺の頭に雑巾臭いそれが投げられた。
汚ねぇー!と俺はアイツが俺の頭にヒットさせた乾いた雑巾を投げ返す。
が、丁度風がヒュウッとか吹きやがってアイツのところまで全然届かなかった。
「まだまだだね。」
アイツは若干鼻にかけた声を出して聞き覚えのある台詞を言った。
もともとは、授業中アイツにねだったお菓子を食ってたら教師に見つかった。これが原因だった。
でもそれは、もう一ヶ月くらい前の話で、さすがに教師もそれだけの事で一ヶ月間罰掃除をしろとは言わない。
なのに何故こうして今でも俺達が罰掃除をくらわされているかと言えば、それはいまだに一回もまともに掃除をしていないからだ。
いつもこうしてサボっている。
「ウゼーー!!」
思わずじだんだ踏んだ俺に、とんだ悲劇が襲い掛かる。
「…ブン…太…」
いつも俺をからかってばかりのあいつも流石に固まった。
勿論俺はその声に答える余裕など無い。
夏にも嬉しくないヒヤッと感。
俺の足はプランターの中に入り、中で咲き誇っていたであろう花を踏み潰していた。
ただの花なら別にそんなに問題は無い。
問題なのは
「ブン太…それ…幸村部長の…」
もう終わりだと思った。
幸村が自慢もかねて家から持ってきた花。
そんな花も今は俺の下敷き。
そして運の悪いことに、
「ブン太。」
降ってきたソレは神の子の声だった。
俺とアイツは凍りついたように動けなくなった。
というわけで、今俺はコイツに八つ当たり中だ。
「お前が雑巾なんて投げるのが悪いんだ。」
勿論、勝手にプランターに足を突っ込んだのは俺でコイツは悪くない。
ただ、何か格好つかねぇだろぃ。
「うん、ごめん。」
こいつはさっきからこれしかいわねぇし。
こんな八つ当たりなんてしてるのが更にダサいんだけど。分かってるけど。
ブン太は子供だから、あたしが大人にならなくちゃ、とか思ってめずらしくこんなに素直な態度とってるんじゃねぇかと思っちゃってムカつく。
「ゆるさね。」
あーあ、今日はケンカ別れかよ。
「許すよ。」
突然アイツは声を明るくした。
「はぁ?許さねぇって言ってるだろぃ!」
「これ聞いたら、許しちゃうと思う。」
…にんまり笑ってなんだ?
思わず黙っちまった。
「何なんだよ。」
俺はムスッとして訊いた。
アイツはいたずらっぽい顔をする。
不覚にも、こういう時のコイツは特にかわいいなと思ってしまう。
「幸村部長がね、罰として無期限で部室の掃除をしろって。ブン太が花を植えなおしてる時言ってた。」
どこが許しちゃうと思うだよ!と言おうとして、俺はハッとした。
「それ、…二人でなのかよ。」
「え?ブン太だけだけど?」
「どこが許しちゃうと思うだよ!」
ごめんごめん、とアイツは笑った。
「嘘だよ。二人でだってさ。」
「…」
(もう罰掃除をわざとサボらなくて済む。)
あ、やばい。俺今絶対顔にやけた。
ふとアイツの顔を見てみるとアイツは下を向いて歩いてた。
コイツも同じ事考えたのか…?
先生に与えられた罰掃除。
俺達は毎回裏庭でサボって、それがバレてまた罰掃除を与えられてを繰り返してた。
俺達は素直じゃなくて「二人でいたい」なんて言えないもんだから、こういう形でしか二人になって話す機会はそうそうないんだ。
「無期限…」
小さく呟いてみた。
なかなかいい響き。
気がつくと俺はアイツに手を伸ばしていた。
キュッとアイツの手を包む。
「…何か言えよ。」
恥ずかしいだろぃ。
「…無期限」
コイツは下を向いたままそう呟いただけだった。
だけどコイツがどんな気持ちで言ったかは十二分に分かる。
「無期限」
俺はもう一度声に出してみた。
今度は、ちょっと恥ずかしいけどアイツの目を見て。
アイツは照れ笑いをするとまた下を向いちまった。
ずっとずっと、無期限にこんな幸せな時間が続けばいい。
そんな気持ちが、繋いだ手をいったりきたりしていた。