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□君と僕の方程式
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方程式というものは、イコールで繋がっている。同じであるという証明。まさに、同一という定義。
例えどんな式であろうと、方程式はイコールが無ければ方程式ではない。
そこまで読んでから、僕は本をぱたりと閉じた。――ああ、そうか。
その論理がつまらないわけではない。そう言う捉え方がある、ということだけだ。
だから同じものはイコールで繋がっている。
例え、誰がそれを否定しようとも、自分自身がそう思うのなら。
「同じ、になれるのかな」
「どうしたの?」
「………読書中に何、君はいつも唐突な登場をしてくれるね」
「あら、別にいいでしょう?貴方自身、嫌って顔をしていないわ」
夕暮れ時の教室内。いるのは僕と彼女だけ。
肩を竦めながら話す彼女に、僕は一つの溜息を吐いた。
特に憂鬱というわけではなかったのだが…彼女がいると調子が狂う。
しかし、それは僕だけのようで、彼女は気にしたそぶりも見せず、椅子を持ってきて隣に座る。彼女にとっての定位置。
そして、僕にとっても彼女が隣にいることが自然になりつつあった。
「どうかな。それを隠しているだけだとしても?」
「それなら、私は話しかけないし、貴方も相手しないでしょうに」
「正論だね。そして暴論だ」
「…私の中の定義に従ったまでよ。生意気ね、天才くん」
「無論、僕の定義に基づいて、だよ。秀才さん」
嫌みのような論争も楽しみの一つだ。彼女との論争は飽きない。
ずっと話していられるだろう、そう思えるくらいに彼女は饒舌なのだ。
負けず嫌いの性分の僕は、彼女の口車にまんまと乗せられて口喧嘩へと発展する。
……はた迷惑な話だ。そう思わないか。
「それは方程式に基づいた本?私、数学関連の論文も好き。まぁ国語論文の方が好きだけど」
「それは感性が違うからそう思うだけだ。数学の中で一番好きなのが方程式だ。――分かるか?」
「何、その方程式の良さを理解しろといいたいの?」
「そうだといったら?」
「別に、否定なんかしないわ。好きよ、方程式。だって、不思議じゃない」
「不思議?」
そうよ、と彼女はにこりと微笑む。
整った顔立ちで笑うものだから、思わず僕は顔を背けてしまう。
照れてるとか、恥ずかしがってるとか。そういうことじゃなくて、違うんだ。
変な思考をしながら、改めて顔をあげると、彼女は隣にはいなくなっていた。
きょろ、と目線を動かすと、黒板に何か書いている彼女がいる。
でっかく書かれていたのは、方程式になくてはならないもの。
「………イコール。たった一つの記号で同じという意味を見出す。同じという定義そのもの」
「――君は、それを感じてどう思った?」
「とても素敵だわ。だって、私と君もイコールで繋げられるかもしれないから」
「……繋げる?」
おいで、と手招きをされる。僕は首を傾げながら黒板の前に立たされる。
そして、少し間をおいて彼女もぴしっと黒板の前に立った。
何故か、僕と彼女の間が広い。……どうしたというのだろう。
ふと、教室内を見渡すと、ロッカーの上に携帯電話が置いてあった。
そういえばさっき、彼女が置いてような――と、考えていた瞬間。
――ぱしゃり。とシャッター音が響いた。
「………は?」
「ありがと。ちょっと待っててね」
理解できていない僕を横目に、彼女は置いてあった携帯を拾い上げる。
中をみて安心したのか、いそいそと僕に近寄ってくる。その表情はとても嬉しそうだ。
気になっていたので、その中身を見せてもらうことにした。
「ねぇ。綺麗になってるでしょう。私たちのイコールの方程式」
黒板に大きく書かれたイコールに合わせて立っている僕たちの写真。
僕はいつものような仏頂面で、彼女は小さく笑みを讃えていた。
君と僕の方程式
(繋がりを得た僕たちは)
(きっと永遠のイコールとなる)
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お題『君と僕の方程式』
ストロベア様提出
名前を出さずに彼と彼女が論争しました。
彼=彼女という特別になりたかったのだと。
方程式って結構不思議なものだと思うのですが…思いませんかね?
20110620 蓬莱リアル