拍手など
□求婚シリーズ
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黒の組織のジンに求婚してみました。
「ねぇ、結婚しない?」
「寝言は寝て言え」
ため息と共に吐き出された煙草の煙。
深く被られた帽子と立てられたコートの襟で彼の表情を伺うことはできない。
「私、こういう冗談は嫌いだわ」
「オレは冗談じゃなくても嫌いだがな」
任務を開始する前の少しの空き時間。
ジンの愛車で交わす会話。
私的には至極、本気で言っているというのに彼には冗談にしか聞こえないみたい。
・・・まあ、付き合っているというか怪しいほどに私達の関係は曖昧だ。
「実は、私・・・子供が・・・・」
「堕ろせ。そんなもの」
「・・・・・・できたわけではないけれど、欲しくて仕方ないのよ」
「どっかで男でも捕まえて、作ればいいだろ」
酷い、男だ。
あまりにも酷すぎて、なんだか逆に心地いいなんて・・・。
私、そんな趣味はなかったはずなのに。
「私、貴方との子供がいいわ」
ねぇ、だから結婚しましょう?
ちらりとこちらを見ただけで、煙草を吹かしている彼。
いい返事はもらえそうになくて、私は深いため息を吐き出す。
「時間だ」
かけられたエンジン。
握られたハンドル。
つながれるクラッチ。
いつも以上に荒々しい運転は、くだらないことを言った私への報復か。
それとも彼の動揺か。
=ジンの場合=
「ねぇ、結婚しましょうよ・・・ジン」
ベッドの上。
裸で寝転がる私を一瞥して、彼はコートと帽子を身につけ部屋を後にする。
「本当に・・・酷い男」
シャワーを浴びるために立ち上がった私の目に飛び込んできたテーブルの上に置かれた一枚の紙。
置いた記憶のないその紙に手を伸ばして広げてみる。
それが何であるかを理解した私は、無性に笑えてきて久しぶりに声を上げて笑う。
「ふ、ふふふ・・・あはははっ!」
私の手に握られているのは、一枚の婚姻届。
妻の欄のみ、開けられたそれはジンに取っては最大の“デレ”。
「本当に、酷い男!」
数日後、私の左薬指にプラチナのシンプルなリングが輝く。
もちろん、彼の指にも・・・ね。
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