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□「友人行進曲」
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最初に彼を見たのは駅のホーム。
キングス・クロス駅9と4分の3番線で見かけた。
一体、彼の何に惹かれたのか解らないけれど、気づけば私の視線は彼を追いかけていた。
あまりにも見つめすぎてしまい、発車しそうになる特急に飛び乗ったため、見失ってしまった。

次に彼を見たのは組み分けの時。
彼の名前が分かった瞬間だった。

トム・マールヴォロ・リドル。

名前を呼ばれた瞬間、彼が顔をしかめた事に気づいたのは私だけだろう。
彼の寮は、スリザリンになった。

同じ寮になったというのに、彼との接点はほとんどなかった。
彼の周りには常に人がいて。
優秀な彼は教授達からも一目置かれている。

話してみたいとは思っていたけれど、自分から話しかける気はなかった。
私はただ、彼を見つめるだけで十分だった。
見つめる・・・とは、語弊がある。
私は観察をするかのように感情のこもらない目で彼を見ていた。


「・・・」


ただ、3年以上も同じ寮で過ごせば偶然というものがある。
4年生の冬、誰もいないと思った談話室。
暖炉の前に置かれた一人用ソファに座り本を読んでいるトム・リドルの姿。

寒い冬の談話室。
彼から距離をとりたいところだが、暖炉の近くでなくては凍えてしまいそうだ。

・・・寒いのは嫌い。

私は軽く息を吐き出してから彼の向かいのソファに腰掛けた。
手に持った山積みの本をソファの横に置いて、一番上の本を手にとって開く。
パラパラとページを開いて最後まで行ったところで本を閉じ、次の本を手に取る。
同じ事を繰り返し、持ってきた5冊の本全て見終わったところでソファに体を沈めた。

杖を振って用意した紅茶を口に運ぶ。
もちろん、彼の分も用意して。
一人分だけ用意して飲むなんてこと、私にはできないからね。


「よかったら、紅茶をどうぞー」

「・・・ありがとう」


本から一瞬視線を外して、彼が私に向かって微笑み礼を口にする。
・・・ふむ、目が笑っていない。
彼の気持ちをくむのなら、

「関わってくるな面倒だ」

って、ところか。
本に視線を戻した彼。
紅茶を口にしながら見る。
しばらくして、彼も本を読み終わったのか、本を閉じて紅茶を口にする。


「さっき、本を眺めていたみたいだけど、何か捜し物?Miss・・・」

「リウ・クロノス。ちなみに同じ学年。
 本は眺めてたんじゃなくて読んでたのー。
 私の特技は速読と暗記だからね」


珍しい事もある。
“優秀”なトム・リドルが私の名前を知らないなんて。


「あ。今、どうでもいいと思ったでしょー」


顔は笑っているというのに、興味のなさそうな視線。
彼の心を代弁してみるが、彼の表情は崩れない。


「さらに、面倒な奴だって思った。
 そんな笑顔貼り付けたって駄目だよー。

 目が、笑ってないもん」


挑発するように指摘する。
先ほどまでの笑顔が消え、無表情で私を見るトム・リドル。
彼の次の行動なんて簡単に予測できる。
私は右手の袖に隠し持っている杖をいつでも出せるように握る。

笑顔を浮かべながら彼の様子を見ていれば、一瞬にして杖を構え無言呪文を飛ばす彼。
それを予測していた私は彼が杖をとろうと動くと同時に動き、こちらも無言呪文で防御する。
例え、周りに人がいたとしてもあまりにも一瞬の攻防に気づくことさえないだろう。


「私だって馬鹿じゃないのだよ、リドル君。
 入学してからの3年と数ヶ月。ずーっと、君を見てきたんだ。
 君がどういう人物かっていうことくらい解っているのだよ」


立ち上がり腰に左手を当て、右手に持った杖をリドル君に向ける。
所為、勝ち誇った時のポーズだ。
下から無表情に見上げてくるリドル君は、とても悔しそうだ。


「リウ・クロノス・・・だったね」


ゆっくりと、彼が立ち上がり私に近づく。
未だ警戒を向けるが、そんなことは関係ないといわんばかりに彼は私の目の前に立つ。
伸ばされた彼の手は私の頬に当てられ、誘うように上を向かされる。


普段の彼とは違う、紅い、瞳。


「“覚えた”よ。リウ」


彼の瞳が近づいて、私と彼の距離が、なくなる。


「お休み、リウ」













=彼との距離=
(縮めるつもりが、実はあったのだ)












「・・・ちょっと、近づきすぎ、だけどねー」

一人になった談話室。

私は再びソファに体を埋める。

これで彼は私に興味を持ったはずだ。

あまりにもうまく行きすぎて、嬉しいという感情もわいてこない。

今年中に彼と接触を図る予定だった。

それが“今日”になってしまったのは、ただの偶然で。

「思ったより、単純だったなぁ」

簡単に引っかかって。

簡単に挑発された。

でも、思い出すのは唇に触れた柔らかい感触と紅い瞳。

「・・・・・・ファーストキス、だったんだけどなぁ」


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