〜プロローグ・第1話〜
□第2節
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「じゃあリュウ、早速頼むよ」
「はい」
ピナコはリュウを奥の部屋へ連れて行った。
「エド、彼がリハビリを手伝ってくれるそうだよ」
「……え?」
ピナコに“エド”と呼ばれた金髪金眼の少年は、右腕と左脚が義手・義足だった。
「はじめまして、リュウ・クロイトです」
「……?」
“エド”はちょっと驚いたような表情をしている。
「この子だよ。名前はエドワード・エルリック。鎧の子がその弟でアルフォンス・エルリック。横にいるのはあたしの孫娘のウィンリイ・ロックベル。あたしと同じ機械鎧技師だよ」
(おーとめいる? ……あの義手のことか。って、あの鎧、どうなってんだ?)
リュウはアルフォンスから普通ではない感覚を感じ取った。
「あの……リュウ、さん」
「!」
そのアルフォンスが声をかけてきた。
「あ、なに?」
「どうして手伝ってくれるんですか? 見ず知らずの人なのに……」
「え」
リュウはエドワードを見た。彼もそれを知りたそうな顔をしている。
「……どうしてって、俺がただ、早く良くなるようにしてあげたいって思っただけだよ。だから、君が完全に治るまで付き合うよ」
「でもリュウさん、この辺りの人じゃありませんよね……家族とか心配するんじゃ」
「それは大丈夫だ。俺に家族はいないから。いや……存在しない」
「……え?」
「そのままの意味だ。さあ、始めるぞ」
リュウはエドワードの前に膝をつき、右の掌をエドワードに向けた。
「え、ちょっ……何をする気だ!?」
「いいからじっとしてて」
エドワードは何をされるかわからず不安になったが、体を動かすのは辛いためじっとしていた。
すると、リュウの右手から淡い光が出始め、やがてエドワードも光に包まれた。
「なんだ、これ……? 錬成反応とは違う……?」
(錬成反応?)
リュウはその言葉に疑問を持ったが、今は癒術に集中した。
「……ふう」
数十秒して、光は消えた。
「この術は、そう何度もできるものじゃない。だからしょっちゅうはできないけど、普通にリハビリをするよりも治りは早くなる」
リュウはエドワードを見た。……驚いた顔をしている。よく見ると、ピナコとウィンリイも驚いている。アルフォンスは鎧なのでよくわからないが、たぶん同じだろう。
「今のは、一体……? 錬金術じゃ、ないよな…」
「錬金術? これは癒術といって、回復専門の魔法だ」
「は? 魔法? ……って、お伽噺に出てくるような、無からいろんなものを出したり、箒で空を飛んだりするあれか? そんなもの、あるわけないだろ」
エドワードが当然という顔で言った。
「うん、この世界にはないようだね。でも、俺は魔法が使えるんだ。今君が言ったように、無からものを作り出せるし、箒は使わないけど、空も飛べる」
「…………」
みんな、理解不能な表情をしている。
「(まあ、これが自然な反応だろうな……)一つ言っておこう。自分達の常識で理解しようとするなら、俺の言うこと為すことは到底理解できない」
リュウが言うと、エドワードが言い返してきた。
「確かに、理解できねぇよ。錬金術でやったんならまだしも、魔法なんてありえない」
「ありえないことなんて、この世にない。現に、俺が今使ったところを見ただろう」
「っ……」
「信じようと信じまいと、俺は君のリハビリを手伝う。それだけだ」
リュウは立ち上がり、四人に背を向けた。
「また明日来るよ」
言い残し、リュウは家を出た。