〜プロローグ・第1話〜

□第3節
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 一方、リュウは……。

(あの鎧は……)

 アルフォンスのことが気になっていた。

(鎧の中は空っぽだ。ということは、魂だけで生きているのか? 一体どうやってあんな状態になったんだ?)

 リュウは、生き物の身体が発する気配を感じ取ることができる。それにより、鎧の中を見ることなくアルフォンスには「身体が無い」ことを見抜いた。

(それに、エドワードの右腕と左脚……アルフォンスの身体と関係あるのか? ……少し、調べてみるか……ん?)

 家を出て適当に歩いてきたリュウは、別の家の前で止まった。

(誰もいない。が、血の匂いがする……入ってみるか)

 リュウはその家の玄関先に立ち、そのままなんの躊躇もなく足を踏み出した。すると、身体が家の中にすり抜けて入っていった。

「…………」

 中はいたって普通のリビングだ。そこで、写真立てを見つけた。
 そこには、二人の小さな男の子が写っていた。

(左に写っているのは……エドワードだな。右の子は、ひょっとして……アルフォンスなのか? ここは二人の家か……)

 写真の二人はこんなに楽しそうに笑っているのに、一体何があったのか。

(この頃はアルフォンスもちゃんと身体があったのか)

 考えながら、別の部屋へ向かった。

(ここは寝室か。ここはトイレ……隣は……)

 はたと、足の動きを止めた。

「……ここから血の匂いがする」

 またもドアを開けることなく、中へすり抜けていった。そこで見たのは、

「…………」

 床に大量に飛び散った、血の跡だった。

(血で見えないところもあるけど、下の模様は……紋章?)

 恐らく白いチョークで、円と文字が描かれている。

(んー、魔方陣に似てるけど、この世界に魔法はないし……そうだ、錬金術……錬金陣、じゃ変だな。錬金術……錬……錬成反応……錬成陣? これはなかなかいいな。っと、そんなことは今はいいか。とにかく、あの兄弟の身体とこれは関係があるようだな)

 そう考え、リュウは部屋の中を調べ始めた。

 その部屋には、机と椅子と本棚と、ただの鎧が一体あった。

(本を調べてみるか……)

 リュウは何十冊かある本を、一冊一冊読み始めた。といっても、ぱらぱらっと見るだけ。これで十分に内容を理解できるのである。

(どれも、錬金術とやらに関してだな。……なるほど、等価交換、か。質量が一のものからは、同じく質量一のものしかできない。無から作り出すことのできる魔法とはやはり違うな)

 そうしてどんどん読み進めていき、一冊の本で手が止まった。

(……人体錬成……?)

 その名の通り、人間を錬成するものである。

(人体錬成は禁忌とされている……ま、当然だな。人間が人間を創ることなどできない。それに、死んだ者を生き返らせることもできない。……いや、人体錬成……?)

 リュウはふと、一人の姿を思い浮かべた。

(アルフォンス……彼の身体は一体……)

 そう、あの鎧の中は、空。

(そうだ、さっきの写真……小さい頃は身体はあったのに、今は魂だけで「生きている」。彼は人体錬成をされたわけではないようだが……まてよ、この床の血……二人のものとは質が違うものが混じっている。これは誰の? ……!)

 リュウは、ひとつの答えを導き出した。

(あの二人は、人体錬成をやったのか……? それで身体を失った!?)

 考えは広がっていく。

(禁忌を犯したから、その代償として身体を奪われた。だが、いくら探ってもこの世界に二人の身体はみつからない)

 動物でも昆虫でも植物でも、生き物の身体はこの世に有り続ける。たとえ焼かれても粉々になっても、消え去ることはない。そんな状態になっても、リュウは察知できるのだ。

(ということは、ここではない異空間にあるはずだ。人体錬成をせずにそこへ行ける方法はないのか……?)

 リュウは残りの本を読み考えたが、残念ながら今の段階では思いつかなかった。

(仕方ない、二人から探るしかないな)

 リュウは家を出て、ふとロックベル宅を見た。




 その向こうから、鳥たちの囀りがきこえた。

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