〜プロローグ・第1話〜
□第1話 〜第1節〜
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程なくして、一軒の家に近付いてきた。
(四人、と一匹いるな)
彼は家の中を覗かなくても、鋭敏な感覚で中の様子を知ることができる。
彼がもう少し様子を知ろうとして家に寄ると、中から声が聞こえてきた。
「うぐっ!」
「兄さん!」
「エド!」
「……やっぱり、最初はもう少し簡単なことからやったらどうだい」
「いや、大丈夫だ……それに、俺が早く終えない限り、国家錬金術師にもなれないだろ」
声の調子から、重く真剣な様子が伝わってくる。
彼は玄関先まで近付いてみた。するとそこで、
「ワンッ、ワンッ、」
家の中の犬が吠え出した。どうやら彼に気付いたようだ。
「どうしたデン、お客さんかい? ……ちょいといってくるよ」
(この声はお婆さんだな。……あ、来た)
ドアが開き、背の低い老婆が出てきた。
「おや、いらっしゃい。何か用かい」
彼女は先程の心配そうな声とは裏腹に、笑顔で彼を出迎える。
「あ、ええと……俺、この辺りに来たばかりなんで、いろいろ教えてもらおうと思ってたんですけど……どうかしたんですか? 何か手伝えることがあればしますけど」
「聞こえてたのかい? 大丈夫だよ。あたしらでやれるから」
「でも……」
彼は一瞬言うのを躊躇い、
「血の匂いがします」
しかし気にかかるため言った。
「あんた、鼻が利くんだね……実は大怪我をした子がいてね。今リハビリをしているんだよ」
「成る程……だったら、少しでも早く治すことができますよ」
いきなりの言葉に、彼女は驚いた顔をした。
「本当かい!? でも、どうやって治すんだい」
「癒術です」
「……ゆじゅつ? 初めて聞いたねえ」
彼女は首を傾げている。
「そうですか。でも、治りが早まるのは確かです。もちろん、うまくいかないようなことはありません」
彼女は、眼鏡の奥から彼の顔をじっと見て黙って考えていた。
(まあ、すぐに信用しろというのは難しいだろうけどな……)
彼はそう思った。だが彼女は、真剣な表情で彼に訊ねた。
「……信じていいのかい」
「! ……はい。会ったばかりですけどね」
彼の目をじっと見て、彼女はしばらく考え込んでいたが……何を思ったのか、納得したような顔をして言った。
「わかった。信用するよ。あんたは出鱈目を言ってるようには見えないからね」
「……ありがとうございます」
ほっとした彼はにっこり笑って応えた。
「そういや、名前訊いてなかったね。あたしはピナコ・ロックベル。あんたは?」
名前を訊ねられて、決まった名を持たない彼はちょっと考えて、思いついた名を答えた。
「リュウ・クロイトです」
これで、この世界での彼の名が決まった。