〜プロローグ・第1話〜

□第1話 〜第1節〜
2ページ/2ページ

 程なくして、一軒の家に近付いてきた。

(四人、と一匹いるな)

 彼は家の中を覗かなくても、鋭敏な感覚で中の様子を知ることができる。
 彼がもう少し様子を知ろうとして家に寄ると、中から声が聞こえてきた。

「うぐっ!」
「兄さん!」
「エド!」
「……やっぱり、最初はもう少し簡単なことからやったらどうだい」
「いや、大丈夫だ……それに、俺が早く終えない限り、国家錬金術師にもなれないだろ」

 声の調子から、重く真剣な様子が伝わってくる。
 彼は玄関先まで近付いてみた。するとそこで、

「ワンッ、ワンッ、」

 家の中の犬が吠え出した。どうやら彼に気付いたようだ。

「どうしたデン、お客さんかい? ……ちょいといってくるよ」
(この声はお婆さんだな。……あ、来た)

 ドアが開き、背の低い老婆が出てきた。

「おや、いらっしゃい。何か用かい」

 彼女は先程の心配そうな声とは裏腹に、笑顔で彼を出迎える。

「あ、ええと……俺、この辺りに来たばかりなんで、いろいろ教えてもらおうと思ってたんですけど……どうかしたんですか? 何か手伝えることがあればしますけど」
「聞こえてたのかい? 大丈夫だよ。あたしらでやれるから」
「でも……」

 彼は一瞬言うのを躊躇い、

「血の匂いがします」

 しかし気にかかるため言った。

「あんた、鼻が利くんだね……実は大怪我をした子がいてね。今リハビリをしているんだよ」
「成る程……だったら、少しでも早く治すことができますよ」

 いきなりの言葉に、彼女は驚いた顔をした。

「本当かい!? でも、どうやって治すんだい」
「癒術です」
「……ゆじゅつ? 初めて聞いたねえ」

 彼女は首を傾げている。

「そうですか。でも、治りが早まるのは確かです。もちろん、うまくいかないようなことはありません」

 彼女は、眼鏡の奥から彼の顔をじっと見て黙って考えていた。

(まあ、すぐに信用しろというのは難しいだろうけどな……)

 彼はそう思った。だが彼女は、真剣な表情で彼に訊ねた。

「……信じていいのかい」
「! ……はい。会ったばかりですけどね」

 彼の目をじっと見て、彼女はしばらく考え込んでいたが……何を思ったのか、納得したような顔をして言った。

「わかった。信用するよ。あんたは出鱈目を言ってるようには見えないからね」
「……ありがとうございます」

 ほっとした彼はにっこり笑って応えた。






「そういや、名前訊いてなかったね。あたしはピナコ・ロックベル。あんたは?」

 名前を訊ねられて、決まった名を持たない彼はちょっと考えて、思いついた名を答えた。

「リュウ・クロイトです」

 これで、この世界での彼の名が決まった。
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ