短編集

□葬式ごっこ
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 おばあちゃんが死んだ。
 それは本当に急なことだった。

 仕事で忙しいお母さんの代わりに僕とお姉ちゃんを育ててくれたおばあちゃん。
 おばあちゃんの作るお弁当が他のみんなとは違って地味で、煮物や魚ばっかり入ってて喧嘩したこともある。
 授業参観日に、みんなお母さんが来てくれるのに僕だけおばあちゃんで、悲しくて、寂しくて、八つ当たりしたこともある。
 だけどおばあちゃんはとても優しくて、ごめんねって僕に謝ってくれて。
 そんなおばあちゃんが僕は大好きだった。

 おばあちゃんが死んで、葬式があって、僕はずっとお姉ちゃんと手を繋いでいた。
 お母さんは忙しくて僕に構ってくれなかったから。

 お坊さんのお経が長くて、眠たくて。
 前の方の席で僕とお姉ちゃんはずっと暇だった。
 泣いている大人の人たちも不思議だった。

 でもそれは、僕がおばあちゃんの《死》というものを理解していなかったからで。

 タクシーに乗って火葬場に向かい、おばあちゃんが火葬される時になって、やっと僕は気づいたんだ。
 大好きな優しいおばあちゃんにはもう、二度と会えないんだって。
 僕はおばあちゃんの皺くちゃの手で撫でてもらうのが好きだった。
 おばあちゃんが「お母さんには内緒だよ」ってくれる、蜜柑の飴が好きだった。
 寂しくて眠れない夜はおばあちゃんの布団に潜り込んだ。
 ハンバーグが食べたいって言って困らせたけど、僕は本当はおばあちゃんの作る煮物も大好きだった。

「おばあちゃん。」
 もう会えないんだ。
 火葬されようとするおばあちゃん。
 僕は悲しく悲しく寂しくて、声を上げて泣いた。
 お母さんが僕の頭を撫でてくれたけど、あんまりにも久しぶりすぎて、なんだかあまり気持ち良くなかった。

「おばあちゃんを焼かないで!」
「おばあちゃんが死んじゃう!」
「もう会えなくなっちゃう!」
「おばあちゃんを焼かないで!」

 もし、おばあちゃんが目を覚ましたらとっても熱い。
 熱くて熱くて出たくても、扉は丈夫な鉄だ。
 細いおばあちゃんにはとても開けられない。

「ユキト。」
 泣きわめく僕を、お母さんは抱きしめてくれた。
「お母さんはね、星になるの。」
「星?」
「そう。だから、煙りにならないとおばあちゃんは空に昇れないでしょう?」
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