短編集

□えんじぇるぱんち
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「りっくん、あのさ。私天使なんだよね。」
 学校帰りの公園で。
 幼なじみの驚愕の一言に、俺はパンを喉に詰まらせた。

 彼女の名前は高橋美愛。
 16歳。
 俺の家の右隣りに住む幼なじみで、結構かわいい。
 彼氏は今までいたことがない。
 ちなみに多少の不思議ちゃん。
 いや、訂正。
 かなりの不思議ちゃん。

「りっくんどうしたの?」
 美愛は不思議そうに俺の顔を覗き込む。
 お前のせいだ、と今すぐ言いたいが生憎喉に詰まったパンが邪魔をする。
「あ、もしかして、信じてない。」
 もちろんだ。
 俺は首を縦に振る。
「――。仕方ないなぁ。」
 仕方ないのはお前の頭だ。
 そう言おうとやっとの思いでパンを嚥下した時。

「これでどう?」
 やや色素は薄かったが、それでも黒髪と茶髪の間だった髪の色は美しい金髪に。
 やや緑がかっていた瞳は本当に緑に。
 肌は、黄色人種では有り得ない白色に。
 そして、背中からは人間では有り得ない純白の羽が――。

「何あれ、コスプレ?」
「ハロウィンには早くない?」
 周りからの声が痛い。
「わかった! わかったから戻れ!」
「無理だよ。」
 にっこりと微笑む美愛。
「だって、一度天使になったら二度戻れないもん。」
「――。」
「――。」
「――。」
 小鳥のように小首を傾げる美愛。
「だったらなんで変身した!」
「神様にもう天界に来いって言われてたし、一生に一回のことだからりっくんに最初に見せたいなって。」
「待て! 猛烈に待て!」
「うん、待つよ?」
「そうじゃなくて! お前、どうなるんだ!」
「んー。たぶん今頃みんな私のこと忘れ始めてるし。りっくんが私なこと忘れたら天界に行くよ?」
 もう無理だ。
 俺には無理だ。
 こんな訳のわからないことを理解するなんて、俺には無理だ。

 俺は食べかけのパンをもう一度口に放り込んだ。
「りっくん、現実逃避しないでよ。」
「お前が無茶苦茶言うから。」
「本当のことだもん。」
 かわいらしく頬を膨らます愛美。
 これが別の内容で、ならなぁ。
「ってかお前、天使ならなんで人間のふりしてたんだよ?」
「天使はね、神様が選んだ人間からしか産まれないんだって。だから産まれてしばらくは人間として暮らすわけ。」
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