novel

□短編T
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ある日の昼下がり。


ここ紫の館では、ナギ達がゲームで遊んでいた。


「くそおおぉ!私のジョニーがなぜ負けるのだ!」


「ふははは、どうだ我がダニエルの必殺魔法は。ちゃっちい下級魔法などで防げるものか」


対戦ゲームで敗北を喫したナギがうなって頭を抱える。


千桜相手に押し気味に勝負を進めていたのだが、上級魔法を繰り出されて一気に持っていかれてしまった。


「あんな大技を隠し持っていたなんてずるいぞ!」


「言い訳は見苦しいぞナギ、勝負事は知恵を効かせないとな」


千桜はすました顔で手元の紅茶をすする。


ナギに負けず劣らずのゲーム強者な彼女はこの手の勝負にはめっぽう強い。


「くそーっ、次こそは絶対に倒してやる」


「はっ、のぞむところだ」


「あのー、お二人ともお楽しみの所すみません」


廊下の奥からハヤテが顔を出した。


ナギがそちらにクワっと顔を向ける。


「どうしたハヤテ。今私は極限まで集中を高めている所なのだが」


「す、すみませんお嬢様。お昼が出来たのですが…」


「ああ、もうそんな時間か。くそーせっかく今から千桜を血祭りに上げてやろうと思ったのに」


舌打ちをして罰が悪そうにするナギ。


勝負に水を差されて残念がる彼女だったが、しぶしぶコントローラーを置いて立ち上がった。


「まあいい、戦いは昼食の後だ。その後でたっぷりと辛酸を味わわせてやろう」


「ならいいがな。後で吠え面かくなよ」


千桜は余裕の表情でナギの横を通り過ぎ、リビングへと向かう。




「さて、今日はどんなご飯を作ってくれたのかな」


彼女はテーブルの上に視線を移した。


見ると食卓には欧風のカレーとトマトサラダ、コーンスープとラッシーが並んでいる。


「おおー、美味しそうだな。さすが綾崎君」


「いえいえ、ありがとうございます」


ハヤテの料理の腕前は一品なため、毎度上手な料理がテーブルに並ぶ。


千桜はここへ来てからというもの彼の性能の高さを実感していた。


「さあ、早く食べてゲームの続きをするぞ」


ナギは早くもスプーンをカレーに入れてすくっている。


ゲーム対戦の続きがしたくて仕方ないようだ。


「もう少し味わって食べたらどうだ。せっかくの素敵な料理がもったいないぞ」


「もちろん味わって食べている。ハヤテが作った料理だからな。だが味わって食べつつもスピード速く食べることも可能だ」


手早くカレーを口に運び、次いでナギはコップに入っている飲み物を飲む。


「うん、なかなかいけるではないか」


「それはインドの飲み物でラッシーといいます。ヨーグルトを使っているのでカレーの辛さが和らげられるんですよ」


「ほう、そうなのか。さすが料理の知識も豊富だなハヤテは」


「へえ、そんな飲み物もあるんだ。今度私も作ってみようかな」


千桜はハヤテが作った珍しい飲料を興味深そうに見て言った。


「よろしければ後で作り方をお教えしましょうか?」


「お、いいのか。じゃあお願いしようかな」


「おい、私との勝負はどうなる。料理を教わるのはその後に―」


ナギが抗議しようとするが、その時一つの音が部屋に響いた。



ピ ン ポ ー ン



来客を告げる部屋の呼び鈴が鳴った。


「あ、誰かお客さんかな」


「マリアが帰って来たんじゃないのか」


「でも今日はマリアさん、久しぶりに昔の級友と同窓会をするって言ってましたから帰りは遅くなるはずです」


「ってことはヒナか誰かかな…?」


千桜が椅子から立ち上がり、玄関へと向かう。


「あ、千桜さん僕が行きます」


「いや、いいよ。綾崎くんはそこで座ってて。美味しい料理を作ってくれたお礼に私に行かせてくれ」


「そうですか。ではお願いします」


席を立とうとしたハヤテを制して千桜は玄関へと向かった。
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