novel
□遊覧デート(?)
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「もー、こうなりゃ今日は思いっきり楽しんでやるんだから」
1○9ビルの入口までやって来た彼女は、もう一度ビルの上を仰いだ。
今日は、気に入った服を値段を気にせず、とことん買いまくる。
ハヤテと一緒に来れなかった分、好きな服を遠慮せず買おう。
そんな思いを抱きながら、少女はビルの中へと入って行った。
1○9ビルは8階建てであり、加えて地下も2階ある。
まず、少女は下から順に見ていくことにした。
エスカレーターを使って地下の2階まで降りていく。
ビル内はGWであることもあって相当人がいるようだ。
ビルの中に入ってからエスカレーターに至るまで、人の波が途切れることはなかった。
まあ人気の1○9である。通常の平日でもビル内は人であふれているだろう。
まして連休中ともなれば、混雑するのも当然だ。
(それにしても、人がいっぱいいるな〜。さすが1○9って感じ)
少女は1○9の人気ぶりに感心しつつ、階下へ降りていく。
そして、それから幾ばくもなくして地下2階に着いた。
フロア内には多種多彩な店々がある。
店によって売られている服のジャンルも様々だ。
ここなら自分の好みの服が見つかるだろうし、種類もたくさんあることだろう。
「うわー、これいいかも」
さっそくよさげな服を見つけた彼女は、手に取って眺める。
彼女好みのいいデザインだ。
「よし、じゃあこれ試着してみようかな」
服を持って、彼女は試着室へと向かった。
気に入ったので試しに着てみることにしたのだ。
しかし試着室の前には何人か並んでおり、すぐには試着できそうにない。
店内が混んでいるため、現在試着室が全部埋まってしまっていた。
「あちゃー、結構並んじゃってる。どうしようかな」
彼女が並ぼうかどうしようか迷っていると、後ろから声がかけられた。
「お客様、何かお困りですか?」
「えっ?」
聞き覚えのある声が聞こえ、少女は振り向いた。
「あ……ハ、ハヤテ君!?」
「はい。こんにちは西沢さん」
そこにいたのは何とハヤテであった。
いきなりの遭遇に少女は驚いた。
「ハヤテ君、ど、どうしてここに?」
「僕、ここでアルバイトしてるんです」
「ええ!?ここでバイトしてたの?」
「はい。短期の間だけですけど」
ハヤテはたくさんのバイトを掛け持ちしているが、ここ1○9でのバイトもその一つであった。
「うそー、まさかここでバイトしてるなんて知らなかった」
「あはは、驚きました?」
にこっと笑ってハヤテが微笑みかける。
「所で西沢さんはどうしてここに?」
「私はその、ショッピングに」
「あ、そういえば何日か前に電話くれましたよね。あの時言ってたショッピングに行く場所ってもしかしてここだったんですか」
「うん。あれ、言ってなかったっけ」
「ええと、たしか場所までは聞いていなかったと」
歩はハヤテとの電話で、一緒にショッピングに行かないかとは言ったが、1○9に行くとは伝えていなかった。
そのため、歩がここに来ることをハヤテは知らなかったし、どこか普通のショッピングモールにでも行っていると思っていた。
ハヤテは今ここで歩を見かけて初めて彼女がここに来るつもりだったとわかったのだ。
「ごめん、私、行く場所までは言ってなかったみたい」
「いえ、謝らなくてもいいですよ。どっちにしろ僕はバイトで一緒に回ることはできませんでしたから」
ハヤテはこのGW期間中、ずっとバイトの予定が入っていた。
ここ1○9や、飲食店、自転車便などである。
なので、残念だが歩と一緒に遊ぶことはできない。
「僕の方こそすいません。せっかく誘ってくれたのに……」
「いやいや、いいって!ハヤテ君が謝ることなんてないんだから」
謝るハヤテをあわてて制す歩。
バイトなら仕方のないことだ。
「あの、それよりさっきは何で声をかけてくれたのかな」
「ああ、さっき試着室がいっぱいで困っていたみたいだったから」
「え?あ、ああ、そういえばそうだったかな」
さっき彼女は試着室の件で迷っていた。
それを見ていたハヤテが気づかって声をかけてくれたのである。
「よかったら従業員用の女子トイレ使う?そこならお客さん誰も来ないし鏡もあるし」
「えっ?でも、そんな所使わせてもらってもいいのかな?」
「うん、いいよ。ほんとはだめだけど、少しの間くらいなら僕が特別に許可するから」
「い、いいの?ありがとうハヤテ君」
歩はハヤテの好意に感謝して従業員用のトイレを借りることにした。