泣く子もだまる親衛隊

□泣く子もだまる
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三日目。
今日が親衛隊最後の日である。

そんな大事な日だとしても、今日も今日とて、平井新と顔を合わさなければならない。
いくら嫌で嫌で仕方なくても、隊長さまの笑顔を胸に抱いていれば大丈夫。

「おはようございます。平井新さま」

さわやかな少年を演じることだってできるのだ。

「ああ、おはよう」

この男とも、思えば今日で最後だ。もっさもさの髪は相変わらずそのままで、眼鏡は表情を奪っている。
なぜか顔の下半分と耳が真っ赤に染まっているが、つっこみは入れてやらない。
なのに、平井新は一人で盛り上がって、しゃべり続けた。

「やっぱり、変だ、おれ。お前を見ると、何ていうか、その、胸が痛い。別のやつがお前の近くにいると、泣きたいくらい胸が痛いんだ。だから、教えてくれ。おれはどうしちゃったんだ?」

何だろう。教室で告白した平井新が悪いのか。
だれもがおれたちに目線を送っている気がする。
次の言葉に、だれもが耳をすましているような予感がして、口を開くのは難しい。
でも何かを言わなければ、先に進めないのは確かだ。

「平井新さま。私は会長さまの親衛隊です」

「そんなことは知ってる」

「わかりませんか?」

「わからない! はっきり言ってくれよ」

内心、ため息が出そうだ。いちいち説明しなければならないとは。

「あなたさまは会長さまの恋人でいらっしゃる」

「だから違うって」

「そして、私は会長さまをお守りする立場にあるということです」

「でも、親衛隊は無くなっちゃうんだろ?」

あんたのせいでな、とは言えない。

「親衛隊がなくなったとしてもあの御方を思う気持ちは変わりません。ですから、あなたさまのお気持ちに答えてくださる方は会長さまだけでしょう」

拒絶すれば、平井新はわめき散らした。それはもう、ひどい荒れようだ。
しまいには

「お前なんか知らない! どこへでも行っちまえ!」

何ともありがたい言葉を浴びせてくれた。
隊長さま、申し訳ありません。
投げつけてくる本やバッグや椅子や机などを避けながら、その場を去るしかなかった。
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