泣く子もだまる親衛隊

□泣く子もそだつ
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さて、ここに、おれたち一年生の住む部屋がある。
エレベーターも気軽に使えない(上級生優先なのだ)おれたちは、かなり早い時間に起きて、遅い時間に帰ってくる。

だから、今おれが必死こいて階段を駆け下りているのは、そういった事情があるからだ。

「やべえ」

廊下は走らない。階段はとにかく落ちろ。
何段も飛び越えて、カーブを曲がれ。ほら、教室が見えてきた!
さあ、飛びこめ!

「遅刻だな、松田たいら。いや、真っ平」

最悪だ。教室の扉を背もたれにして、エロ教師が待ち構えていた。

胸の前が開いていて、教師とは思えないほどのホストルックだ。あんな柄の入ったシャツ、風紀的にいいのかよ。なんて言いたくなるが、長いこと会話したくないので無視をする。

「反省文、十枚な」

「おい! 遅刻だけで十枚とか無理なんだけど!」

「敬語なし、うるせえ。よって一枚追加」

おれが何をしたっていうんだ。たった一分の遅刻がこの仕打ちに値すんのか。

「真っ平」

ここで返事をしなければ、無視したことで一枚追加とか、平気で言いそうなんだよな。

「なんでしょうか?」

「ちゃんとシャツ閉めろよ」

そういえば、慌ててたから、シャツも適当に着ちゃったらしい。というか、胸の前が開いてる教師に言われたくない。

「平凡な男でも、狙ってるやつはいるだろうからな」

何を? とかそんなことは聞かない。にたりと笑う教師を前にして、何も言えない、言いたくない。もういいからどいてくれ。

「あの、教室入りたいんですけど」

「ああ、入れ」

あっさりと通してくれたエロ教師はちょっとらしくない。もっとねちっこい姑みたいなやつだったのに(平凡顔やら真っ平やら寝癖やら)、少しはまともになったのか。まあ、よかった。

なんて安心して気を抜いたことを、すぐに後悔することになる。

横を擦り抜けざまに言われた。

「おれも狙ってるうちの一人かもな」
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