泣く子もだまる親衛隊

□賢い子も泣く
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隊長さまとはじめてお会いしたのは図書室でした。
お顔は何度か拝見していましたが、近いところで、しかも言葉を交わしたのは、この日がはじめてでした。

開いた窓から吹き込んでくる風が、隊長さまの髪を横に流しました。
金色のつやのある髪の毛と、幼さも残る顔立ちは、隊長さまの人気を物語っていました。

ですが、それだけではありません。
髪の毛を直す仕草とか、同じ男とは思えないほどに繊細に、なめらかに見えたのです。

好きです。なんて思わずこぼしてしまいそうな美しさを兼ね備えておられました。
ま、ぼくなんかでは迷惑でしょうけど。

「きみが藤沢くんだよね?」

隊長さまはほほ笑んでくださいました。なぜ、ぼくの名前を知ってらっしゃるのか。そんなに目立つ容姿でもないでしょうに。
そのときのぼくは思いました。

「確かにぼくは藤沢です。でも、どうして」

「校内一、頭がいいらしいね?」

「そんなめっそうもございません」

首を横に振って返せば、

「そして、とってもひかえめな子か……、いいね、親衛隊にふさわしい」

「し、親衛隊!」

ぼくは親衛隊という言葉に恐ろしく反応してしまうのです。情けないと思うのですが、一度、親衛隊のみなさんが、男の子を殴り付けているのを見てしまいました。

ずいぶんと小さい人が、ぼっこぼこに殴られていたのです。

見ていたぼくは何もできませんでした。自分も殴られたらと思うと、恐怖ばかりがやってきて行動に移せなかったのです。

それからです。
親衛隊という言葉を聞くと体全体から拒否反応物質が出るのは。まさに大声はその典型です。

「噂どおりだね。親衛隊に恐怖を感じている、か。ぼくはね、生徒会長親衛隊の改革をしようと思ってる。過激派を潰す穏健派をね、この手で作りたいんだ」
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