泣く子もだまる親衛隊
□泣く子もそだつ
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授業も無事終わり、放課後になると一気に力が抜ける。
机にへばりつきながら、声をかけてくる友人に「じゃあな」とか「またな」とか返す。
親衛隊がなくなったおれはすごくたるみきった生活を送ってる。
というか、親衛隊のころのおれが無駄にしっかりしすぎてたんだ。
制服もきっちり着込んでたし、今日みたいな遅刻もぜったいなかった。馬鹿みたいに必死だった。
「あー、つまんねえ」
近ごろの口癖だ。
もうダメすぎる。
本当におれって親衛隊しかなかったんだと、目の前で突き付けられてるような気がする。
なくしてから大事なことに気付くってのは本当だ。
なくすほど危うい場所にあるから大事なんだろうけど。
結構、ダメージが大きい。
「おい!」
思考をさえぎるように声がおれを呼んだ。
背中から放たれた声はどこか低くて、たぶん不機嫌なんだろう。
体をねじって振り向けば、
「新」
平井新が教室の後ろにいた。
バッグを持っているから、一緒に帰ろうってとこか。
「ずっと呼んでたのに、無視してんじゃねえよ!」
「あ、そうだったか、ごめん、ごめん」
平井新とはあいかわらず、親友のままだ。
あの日から何も変わってない。
それでも時折、やつが切なそうな顔をする。眼鏡の奥の感情まで読み取れるなんて、長くいすぎてるのかもしれない。
たぶん、親友という位置がそういう顔をさせるんだと思う。残酷なことをしてるっておれ自身、わかってる。罪悪感もあるが、どうにもしない。こいつの想いには応えられないまま、親友として付き合っている。
「一緒に帰るか」
「ああ!」
新はうれしそうに笑う。
見てるほうが切ない、おれ。