短編
□極彩色の絵
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ばかなことをした。
彼の邪魔をする気は本当に無かった。
いつものように楽しそうにキャンバスに向かっている彼を眺めて、暖かい気持ちになっていて、つい、好きだという旨の言葉が出てしまった。
僕が思っていたより声に気持ちが籠ってしまったようで、彼は筆を落とした。
振り返った彼と目が合うのが恐くて逃げ帰って以来、半月ほど会ってない。
いい加減顔が見たいな、と思っていると、玄関の扉をノックする音がした。
インターホンを押す習慣のない尋ね人は、一人しか浮かばなくて、心臓が跳び跳ねた。
どうしよう、まだ心の準備が出来てない。
かといって居留守を使うわけにもいかない。
そうこう考えている間に、コトリと何かを立て掛ける音がして、彼は立ち去ってしまった。
ため息をついて扉を開けると、布にくるまれたキャンバスがあった。
急いで布を捲ってみて驚いた。
これは誰の絵だろう。
「君のことを考えて描いた」
「!?」
外側に向けて開けた扉の向こう側から声がした。
恐る恐る覗き込むと、彼が仏頂面で腕を組んで壁に寄りかかっていた。
「帰ったのかと思った」
「君に会いに来たのに?」
ちらりと目を向けられて、思わず視線をそらす。
「中に入っても?」