中編

□知ってしまった現実
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「結局……一人で来ちゃった」

友人の連絡を受け、私は少し時間が早いが、一人で祭会場へとやってきた。
子供から大人までいるこの祭は、まだ時間が早いというのに、たくさんの人がいた。とても大きな祭なので、自然と会場が広い。その会場の中で私はただ一人そこにいた。

「一人で祭って……どんだけさみしい奴なの、私」

本来ならばきっと、私は一人で来ることは無かっただろう。だが、私は黒い手帳の人の後を追わなければならない。誰でも人の日記を読むのはワクワクするような、そんな好奇心で私は彼を追いたくて、もう一度姿を見たくて。それに、手帳を拾ったのだ。返さなくてはならない。

「さて、あの人を探さないと……」

これだけ大きな祭なので、いつ見つけられるかはわからないが、きっと彼はこの祭に来ている筈。そう信じ、私は歩きだした。













あれから、約2時間後のこと。私は未だに彼を見つけられないでいた。
こうも見つけられないと、彼はこの祭に来ていないんじゃないか、と思ってしまう。それに、ここまでして彼を見つけなくてもいいんじゃないか――。そんなことが、頭をよぎる。
だが、きっとどう思ったとしても、私は彼を探すことを諦めたりはしなかっただろう。それが、悲しい現実を見ることに繋がる選択肢を選んだことになったとしても。

「……あ」

そこでふと、前方に木に寄り掛かり、遠くの方を見てる長い黒髪の男性が目に入った。見る限り、彼は一人のようだ。
そう、きっとその彼が、私の探していた黒い手帳の持ち主だろう。確信した私は、人々を掻き分け、一歩ずつ彼に近づいた。

二人の距離は、今何pだろうか。一歩歩いたら、触れることが出来るところに私は到着した。後は、話かければよいだけ。勇気を、振り絞らなければ。彼に話し掛けなければ――。

「あ、あの……「もう、やっと見つけた!ユーリ、どこ行ってたの!?」

……今の声は、誰の声?
私はゆっくりと、声が聞こえた方へ視線を移す。そこには、元気そうな女の子がいた。

「そりゃ、こっちの台詞だ。おまえがどんどん先に進んじまうから、面倒になってここにいたんだよ」
「な、失礼な!今回は絶対、あたし先に進んでないからね!……って」

彼と仲良く話している少女はふと、私の方に視線を移した。

「この人……誰?」




知ってしまった現実




(目隠しを外さない方が幸せなこともあると、私はこの夏の終わりで知ってしまった)







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