中編
□笑顔の子ども
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「この人……誰?」
少女は、ユーリの知り合い?だとか、浮気相手だったりして、とか色々言っているが、彼はじっと私を見た後ゆっくり口を開いた。
「あんたは……確か」
ばれた。なんせ昨日会った人物だ。相当記憶力が悪くない限り、誰だかわかるのは時間の問題。彼は単純に、思い出すのが早かっただけだ。
今更、何も言わず立ち去る訳にもいかないし、とりあえず何かしなければならない。
そう思った私は、バックから黒い手帳を取り出した。
「あの……これ、落としました、よ?」
「ん?……ああ、わざわざ届けてくれたのか。サンキュ」
そういって彼は、私の手から手帳を受け取ろうと、手を出した。そのまま彼に手帳を渡せばこれで終わり、私のこの心も終わりを迎える。それは喜ぶべきことだと、私は思おうとした。だが、手帳を持つ私の手が振るえる、振るえる――。
この手が振るえるのは、悲しいからではない、そう自分に言い聞かせた。
だからだろうか。私は彼に渡そうとした黒い手帳を、彼の手に渡るより早く手から離してしまった。それにより、黒い手帳は地面に打ち付けられ、中身がばらばらになる。
「あ、ごめんなさ……ごめんなさい」
私は急いで、散りばめられた中身を拾う。人にたくさん踏まれてからでは遅い。彼と少女も、中身を拾うのを手伝ってくれた。
にしても、何やってるんだろ、私。とっとと渡して、さよならと彼に別れを告げればよかったのにな。そうすれば、こんなことを手伝ってもらうことなんかなかったのに。
そんなことを思いながら中身を集めていると、ふとあるものが目に止まった。
「これは……?」
私はそのあるものを手に取る。それは色あせた、古い写真だった。写真の中では、小さな女の子と、小さな男の子2人が笑顔で写っている。だが、その写真は見たことがある。これは確か……。
「私……?でもなんで……」
私がこんなところに、と続くはずだった言葉を、私は発することはしなかった。同じ写真に写ってるこの男の子二人は見覚えがあるのだ。これは確か、昨日見た写真の子たちと一緒だ。
そこで、私はやっと思いだした。彼たちのことを、名前を。名前を見てわからなかったなんて、何てど忘れなのだろう。
自分に呆れつつ、私はさっきとは違う、緊張も勇気も必要と感じない声で言った。
「あの」
「ん?」
「あなた、ユーリ……君、だよね?フレンと一緒にいた……」
「フレン?どうしてあいつの名前を……」
彼は少し警戒しながら私の顔を見ると、彼は驚いた顔をした。もしや、と言葉をもらす。
「おまえ……もしかしてさや、か?」
笑顔の子ども
(写真の中だけは、いつまでも笑顔で)
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