中編

□ほら、やっぱり
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「しっかし、世界って狭いな」
「狭すぎだと思うけど……」

自分たちが過去の知り合いだと気づき、私たちは祭会場から少し離れた、店の出店がない静かな場所へとやってきていた。
彼と一緒にいた少女は、私とユーリが過去の友達と聞くと、話しておいでよ、と気をつかってくれ、一人祭会場に残ってくれた。

「でも、よかったの?あの子おいてきちゃって」
「あいつは大丈夫だよ。迷子になったら迷子センターにすすんで行くやつだからな」
「そ、そうなんだ……変わってる子なんだね」
「変わってるつーか、変なんだけどな」

そういいながらも、何だか幸せそうな顔を彼はしていた。私も一応笑顔を作ったが、心からは笑えなくて。

「にしても、おまえこっちに来てたんだな。あん時は絶対、田舎に住んでるままかと思ってたけど」
「確かに、小さい頃は都会が大嫌いだったもんね、私。今考えると都会は便利だから悪くないと思えるけど。……そういえば、フレンはどうしてるの?今も一緒?」
「……なんだ、気になるのか?そりゃそうか、おまえフレンのこと好きだったもんな」

フレンが好きだった?……そうだっけ。全く記憶にない。だが、フレンは写真の中にいたのだ。前にいる彼がいうのだから、きっとフレンが好きだったのだろう。

「オレとか他の奴には君付けなのに、フレンだけ呼び捨てだったもんな。あんなわかりやすいやつ、おまえしかいねえよ。きっと、フレンも気づいてたな」
「そ、そんなにわかりやすかったんだ……私」
「ああ。それにおまえ、自分の気持ちでいっぱいいっぱいで、周りなんか見えてなかっただろ?」

曖昧な記憶を辿り私はうん、と頷くと、彼はやっぱりな、とため息をついた。何かいけなかったのだろうか。

「今だから言えるけど、おまえ結構モテてたんだよ。フレンもオレもさやのこと好きだったやつの一人だしな」
「え」

突然の告白に、私は一瞬時が止まった気がした。
フレンとユーリが私のことを好きだった?……全然気づかなかったよ。単純に考えれば嬉しいことだが、深く考えると私は彼の言葉に悲しむしかないのだろう。

「あいつ、さやが自分に好意よせてんのわかってたなら、告ればよかったのにな。ま、前のオレからしてみれば、絶対二人の協力なんかしなかったと思うけど」
「じゃあ、ユーリ君は片想いだったんだね。両想いだってこと知ってたなら、とっとと私なんかやめちゃえばよかったのに」

その言葉は、表面から見れば、私が過去の彼に言った言葉と感じるだろう。だが、私からしてみれば、それはまるで今の自分に言っているようで。

「ま、そうなんだけどよ。昔のオレは諦める、って言葉が頭になかったんだろうな」
「……かわいそうな子」
「なんだよ、それ」

そういった彼は、笑っていて。――きっと彼は、今の私の気持ちは気づいていないんだろうな。だから、きっとこんな笑顔を私に向けるのだろう。

すると私の耳に、ドンドンと音が聞こえてきた。その音に、私は思わず驚いてしまう。

「お、始まったな、花火」

そうか。この音は、祭のメインである花火なのか。もう、さっきまで花火のことなんて忘れてしまっていた。

「ユーリ君」

と、私は普通のボリュームで話し掛けたが、彼の耳には届いていないのか反応がなかった。きっと、私の声は花火に掻き消されてしまったのだろう。

私の口が少し動き、私は彼を見て何かを呟いた。だがその言葉はさっきと同じ、花火に掻き消され、彼に届くことはない。それでも、私は呟いたんだ。何度も、何度も。

そして私はいつしか声が枯れ、言葉を呟いていなかった。それに気づいた私は、とっさに自動販売機で買った水を飲む。

その後今度は言葉を変え、彼にも聞こえる声のボリュームで私は言った。

「……花火、見に来たんでしょ?だったら、もう彼女のとこ行かなきゃ」

本当は、行ってほしくなんかない。ずっと一緒に花火を見ていたい。だけどそれではダメ、なんだ。

「そうだな。じゃ、オレ行くわ」
「うん」
「また、今度会えたらな」
「うん。また今度」

今度なんて、ありはしない。これがきっと、最後なのだろう。なぜか、そんな気が私はした。

歩き出した彼が振り返り、「フレンのメアド教えてやろうか?」と大声で言ってきた。私はその問いに、大声で「大丈夫」と答えた。

そして大声を出した瞬間、私は、別に空気が悪い訳でもないのに息をするのが何故か苦しく感じられた。





ほら、やっぱり




(こんな結末になるならば、最初からこんな想いなんてなければよかったんだ)





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