中編

□エキストラ
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ヒュウウウ ドンドンドン

私しかいないこの場所に、今だに花火が鳴り響く。きっと、まだ30秒くらい前までは、隣を見れば彼がいたのだろう。

運が悪い、と思った今日。ならばはたして、今回のことは運が悪かった、と言えるのだろうか。昔の友達と再び会えて、また話をすることが出来たのだ。それを、運が悪かった、と。

そんなことは、とてもじゃないが言えない。……そう、今回のは運が悪くはなかったのだろう。10年以上前の友人に会うなんて、運が良いとしか思えない。
悪かったのは、自分で作ってしまったこの感情だけなのだ。運など関係ない、この感情の。

今頃、彼はあの少女と花火を見ているのだろうか。本来の、一緒にいるべき人物と。

「……今回の恋物語は、私はエキストラだね」

今回は。だなんて、言い訳みたいだけど。
だけど私は、きっと十年前の恋物語は、私が主役だ、と思ってしまう。そして、周りにはもちろんユーリやフレンもいて。

もしあの時、私がユーリを好きになっていたのならば、今は変わっていただろうか?
あの時、フレンと両想いと気づいていれば、この今の感情は芽生えなかったのだろうか?
または、彼に再び会わなければ、別の知らない誰かにこの感情が向けられていれば――。

あったかもしれない、もしも話を私は頭で考える。考えたところで、結果など変わりはしないのだけれど。

そして今回。私は、手帳を拾った過去の友人として、いただけ。私の心境なども表されることはない、エキストラの――。

だからせめて、台本をもらっただけで満足すればよかったんだ。
エキストラと王子様なんて釣り合わない。ましてや王子様の顔など、私は決して見てはならない存在なのだから。



エキストラ




そこでふと、今なお鮮やかにあり続けている花火が目に入った。砕け散っていくその花は、まるで私の心ようで。
気づいたら、私は花火に心を重ねるように目を閉じていた。心を静かにすれば、悼むように響く、虫の鈴の音が聞こえた。
そこで、やっと私は理解した。

「そっか……もう、秋なんだね」
秋は、そろそろやってくるのだろう。夏を、終わりにして。私のこの感情を置き去りにして。最初は誰でもよかった筈なのに、どうして。

「好き、でした」

とっくに見えない、彼の背中に私は呟いた。呟いた時、花火は既に散っていて、花火の姿を見れることはなかった。








END.
 

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