短編
□俺が何かしただろうか
1ページ/1ページ
「リタ」
「………」
俺の目の前で彼女が目に涙をため、じっと俺を見ていた。怒りと悲しさが混じっているその瞳は、確実に俺に向けられている。
……俺、何かリタにしたか?いやそれ以前に、何故リタは今にも泣きそうなんだ?考えてみるも、全く覚えがない。ただ、さっきまで彼女とたわいもない話していただけだ。
「研究で何か失敗したのか?」
俺が聞いてみるも返事は、ない。
「研究ばっかじゃ空気悪くなるぞ」
そういって、逃げるように俺は部屋の窓に行き、扉を開ける。風は、想像以上に気持ち良かった。このまま、彼女も気持ちが晴れてくれればよいのだが。
そんなことを期待し彼女を俺は再び見たが、さっきと状況は変わらず。
「あのなあ……言葉で言ってくれなきゃ、俺だってわかんないんだけど……な」
「あたしにあんな話しといて、それは無いでしょ」
あんな話?……何の話だ?全く覚えが無いのだが。女の心って本当にわからない。はっきり言ってくれなきゃ、こっちだってわかんないってのに。
「じゃ、質問を変えるけどさ。リタはなんで、そんな怒ってんだよ」
「怒ってないわよ」
「いや、怒ってるだろ」
「怒ってないって言ってるでしょ!」
「………」
これが、怒ってない?完全に怒っているじゃないか。……ああ、涙が今にも落ちそうだ。女を泣かせるなんて、俺もダメだな。特にリタを泣かせたりしたら、自分が許せなくなりそうだ。
そんな風にリタがなってしまったのは、俺に原因があるのだろう。きっと俺がリタの心を傷つけてしまうようなことをしてしまった、または言ってしまったのだとは思うのだが、それが何なのかがやはりわからない。
だが俺は知っている。彼女の涙を止め方を。
俺はそっと、リタに顔を近づけた。
「リタ」
「な、何よ……って、ん!」
涙の止め方。それは、たった唇と唇を重ねるだけだ。3秒しか触れなかったが、愛を確かめるには十分だった。
「なななな、何すんのよあんた!」
「リタが泣きそうだったから、止めようと思って」
ほら、すっかり泣き顔じゃなくなった。今じゃリタの顔は真っ赤だ。
「こ、こんなことしたってあたしの気持ちは変わらないわよ!」
「ふーん……まあ何でもいいけど。おいしかったし」
「なっ!」
「それに、悪くないだろ?俺のキス」
「き、キスすれば何でも済む訳じゃないわよ」
「へぇ、じゃあキス以外にもやれと」
「そういう意味じゃないわよ!」
俺が何かしただろうか
(って、何さりげなくこっちに来てるのよ!)
(いや、もう一回キスしたくなって)
(……そんなことしたら、どうなるかわかってるわよね?)
(おー、怖い怖い)
―――――――
「ただ、あなたのことを」のリタver的なものでした。