短編

□木曜の楽しみ
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「早く木曜にならないかな……」

駅前にある小さなパン屋さん。そこであたしは一人のアルバイトとして、仕事をしている。
大きな客ラッシュを終え、一息ついたところで仕事仲間が呟いた。…木曜って、昨日だったはずだけど。それを彼女に言うと、彼女は「そうなんだけどさー……」と言って落ち込んでしまう。

「だって……昨日、来なかったんだもん」
「来なかったって……誰が?」
「髪が長くて黒髪の学生さん。名前も知らないんだけどさ……」

髪が長くて黒髪の学生。それだけで、あたしは誰のことを彼女が言ったのかわかった。きっと街の不良っぽい、この小さなパン屋に相応しくないあの人のことだろう。

「……てか、あの男来るのいつも木曜だっけ?」
「うん、そうだよ!……もしかして、知らなかった?」
「もちろん」

だって、いちいち誰がいつくるかなんて覚えてられないでしょ。よく色々な話をする店の常連さんならわかるかもしれないけど、別に常連でも何かを話したりもしてこない、ただパンを買って帰る学生のくる日なんて、あたしはいちいち覚えてられるわけがない。

でもなぜ、そんな男のこと覚えてられるのだろうこの子は。…街の不良っぽいから?だけどそんな考えはすぐ消え、あたしは一つの考えが頭に浮かんだ。

「もしかして、その男が好き、とか」
「え!?い、いや私そんなんじゃ……」

……図星か。わかりやすすぎでしょこの子。

「へえー……ま、頑張って。リリア」
「いやだから、違う……!」

必死にあたしに言ってきたが、その行動はさらに好きというのを確信させてしまうばかりで。

「……だ、誰にもいわないでよ?」
「誰にもって、リリアの恋愛話を話す相手なんてあたしにはいないから」

だからそこは安心して、と彼女にあたしは言った。それにより、彼女は安心したようで安堵のため息をついた。




(来週は……来てくれるかな)
(さあ?)
(…ちょっとは、私を喜ばせてくれる言葉を言ってくれてもいいのに)
 

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