短編

□君の笑顔
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オレがこいつをすきだ、って強く感じたのはいつだっけか。確か、その時笑顔を見た。誰の笑顔より、一番輝いて見えた笑顔を。その笑顔をまた見たくて、オレはおまえに話し掛けた。だけど、おまえは笑顔になるどころか、無表情で、何も話さずオレの前から去っていったんだよな。あれは、結構痛かった。

「なんでおまえ、笑わねえの?」
「………」

今じゃ去ることは無く、全く話さないことも無い。が、こいつは自分に関することは全く言わない。しかも、無表情なのは前と変わりがない。

「笑った方が、オレはいいと思うけどな」
「……笑顔なんて、大嫌い」

ほら、またおまえはそういう。あんなに笑顔の似合うおまえが、そんなこと言ってどうする。あれから何があったのかは知らないが、今でも笑顔は似合うはずなのに。

「なら、笑ってる奴らを見てどう思うんだ」
「いいんじゃない?本人たちが構わないなら」

……他のやつは良くて、自分は駄目、か。

「なんかそれ、間違ってねえか?」
「知らないわよ。私が笑うのが嫌なだけ」
「なんで、嫌なんだよ」
「……笑顔って、人を傷つける凶器でもあるのよ」
「……?」

笑顔が、人を傷つける凶器?そんなこと言うやつ、初めて見た。でもおそらくこれが、こいつから笑顔を奪っている原因なんだろう。前に笑顔で自分が傷ついたか、あるいは傷つけたか。

「笑顔は、痛みと恐怖、辛さ。全てを背負わないと、出来るものじゃない」
「……ふーん」
「……あなた、どうでもいい、って感じね。いいんだけど」
「別にどうでもいい、って訳じゃない。ただ、やっぱ間違えてるなと思っただけだ」

間違ってる。そう、こいつは間違ってるんだ。”笑顔”に対する、根本的な所が。

「なあ、おまえが言ってるその”笑顔”って何だ」
「何だ、って……」
「オレは笑顔ってもんは、嬉しかったり、楽しい時にするもんだと思ってる。痛みと恐怖、辛さを背負ってする笑顔なんて存在しない。それはただの”偽り”だ」
「…っ」
「笑顔ってのは、何かを背負う訳じゃない。笑顔になりたい時、なるんじゃないか?……昔の、おまえみたいに」
「昔の、私……」
「また見せてくれよ。おまえの、笑顔を」
「それってさ……私、どう受けとめたらいいの?」
「どう、受けとめたら?……あ、やべ」
「ぷっ」

気づいたら告ってた、と思ったオレが言ってみたら、おまえは吹き出して、笑った。……って、笑った?

「冷静に言葉言ってそうで、意外に言ってなかったんだね。やべ、って……!しかもよくあんな台詞真顔で言えるよね。私には絶対無理……!」
「……おい、殺っていいかおまえのこと」
「あー、ごめんごめん。だってあまりにも……ふふ」
「………」

あんなに笑うことのしなかったおまえが、こんなに笑うなんてな。少し、というかかなりムカつくが、これはこれで良かったのかもしれない。

「いいよ」
「……は?」
「笑顔。あなたの為に見せてあげても」

ふとおまえの顔を見てみる。そこには、オレが見たかった、一番の。




君の笑顔




(やっぱ似合ってるじゃねえか 誰よりも)






 

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