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□わーるど杯・決勝
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それは対照的なサッカーだった。
スペインとオランダ。共に初の世界一を賭けた決勝戦は荒れた内容となった。
美しいパスサッカーを目指すスペイン、華麗さを捨てて反則覚悟で得点を望んだオランダ。
準決勝の疲れか、スペインの動きに精彩さはなかった。そこへオランダの攻撃的なカットが入り、パスが繋がらない。
ファウルを恐れないオランダに対抗するため、やがてスペインも激しい攻守で応じざるを得なくなっていく。理想を貫き、なお勝つ事の難しさを象徴していた。
延長戦になり、双方、選手交代のカードも使いきった。
このままじゃ、スペインがもたない。
ロマーノはこの数日間のヤキモキも忘れ、ただ試合だけに集中していた。
そして奇跡のスペインゴールが決まると、後は祈るだけだった。
準決勝から日の浅いスペインの方が疲れている。退場者が出たオランダは人数的に不利だったが、一日多く休めているのだ。
スペインを信じたいが、応援と呼べる程のゆとりをロマーノも失っていたのかも知れない。
「もう、早く終わってくれコンチクショー!!」
たまらなくなって叫んだ直後、ようやくホイッスルが鳴る。
試合終了。同時に、スペインの優勝を告げる音だった。


十日後。
ロマーノは緊張で硬くなりながら、スペインの家の前に立っていた。
約束通り見事に優勝したスペイン。
しかし、その後彼らは色々な行事が続いて、直接会うことは出来なかった。
その間に、ロマーノはあれこれ考えていた。
どうやったらスペインを素直に祝ってやれるだろう。
今日に至るまで、まだそれを実現できていなかった。
そして、準決勝の直後にスペインが告げた望み。
勝った彼は、それを果たしたいと思っているだろうか。
物思いに耽ったまま立っていると、ドアが唐突に開いた。
「ロマ?どうしたん、ベルも鳴らさんと!」
「わっ…スペイン!?」
内側から顔を出したスペインは、心配そうに子分を見つめる。
「も〜、もし親分が気づかへんかったら立ちっ放しやでロマーノ。あ、荷物で手塞がってたからベル押されへんかったん?」
確かにロマーノは旅行鞄を持っていた。でも声をかけられなかったのは、そういう理由ではない。
「う、うるせえコノヤロー!勝手に開けんな!」
「ええっ?何でそこで逆ギレすんの!?相変わらずやねんから…」
(お前の事で悩んでたからだよコンチクショー!)
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