排球

□ごっどはんど影山さん
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 今日も部室に(日向と同時にだが)一番乗りで到着した影山が、座って瞳を閉じ、トスのイメージトレーニングをしていた。
 その指先の動きを見た日向は、
「ま〜たエロ親父みたいな動きしてる」
 心の中だけで呟いたつもりが、口に出してしまっていた。
「…あ?」
 しまった。
 日向が後悔した時にはもう遅く、集中を邪魔された影山が、苛立った番犬のような目で睨んでくる。
「ひっ!」
 動物が逃げるのがわかる目つきの怖さ。
(いや、おれ頑張れ!)
 ここでビビっていてはいけない。
(そうだ、影山の一人や二人…)
 しかし、影山は自分の指と日向を見比べると、意地悪な(日向にはそう見える)笑みを浮かべて言った。
「だったら、試してみるか」
「え?」
 何をと聞くより先に、影山の手が日向の体を捕らえた。


「きゃはははっ、影山、くすぐったいっ!」
 影山の両手が容赦なく、日向の脇や腰をくすぐってくる。その絶妙な加減に、日向は笑い転げるほかなかった。
「人聞きの悪いこと言うからだ、このボゲェ」
「わははっ、もうダメ、やめてっ!」
 笑い過ぎて涙が出てくる。いつの間にか畳に横たわって悶えていた日向の上に、影山が覆い被さってきた。
「降参するか、日向?」
 その勝ち誇った顔に、日向の負けん気がムクムクと湧いてきた。
 日向はべっと舌を出して、
「や〜だ。おれ、ホントのこと言っただけだもん!」
 その反抗的な態度が、影山の加虐心、つまりちょっといじめたくなる気持ちに火をつけた。
「こっの、ボゲ日向」
 日向に馬乗りになったまま、影山は再び手を動かす。
「あはははっ…もう…」
 日向は応戦しようにも、こそばゆさと影山の重みで力が入らない。
 他に誰かいれば、そろそろ止めてくれる頃だろうが、まだやって来る者はいなかった。
 手当たり次第に動かしていた影山の指が、不意に日向の腰の辺りに触れた時、
「ひゃっ…!」
 くすぐったいのとは違う、甘い電流にも似た刺激を感じて、日向は反射的に上ずった声を上げていた。
 うわ。
 日向自身も驚きと、変な声を出した恥ずかしさに、咄嗟に自ら手で口を押さえる。
「…え?」
 影山も予想外の反応に、思わず手を止める。
(俺、今どこ触ってた?)
 手当たり次第と言っても、変な所には触ってないはず。
(じゃあ、触り方か?)
 影山は何故か落ち着かない。自分の指と、真下に横たわる日向を交互に見た。
「……」
 羞恥と戸惑いが混じった目で見上げてくる日向に、影山は手を動かせなくなっていた。
 次に触れたらどうなるかわからない。
 得体の知れない衝動に駆られそうだった。
 その時、部室の扉が開いた。
「おーっす」
 最悪のタイミングで入ってきたのは、澤村と、偶然一緒になった谷地だった。
 
 澤村は、中を見た瞬間、回れ右で扉を閉めそうになった。
「びゃああっ!?」
 隣から奇声が上がる。谷地だろう。
 澤村の笑顔が貼りついたまま、表情筋が固まる。
 一体これは、どういう状態なんだ。
「影山くんが日向を押し倒してるっ!?」
「違う! 違います!」
 谷地の叫びに、影山が激しく反応した。
 ああ違うのか、そうか。じゃあ何やってるんだろう?
 喧嘩かと思ったが、日向の潤んだ目と上気した顔。影山の珍しく露骨に焦った顔。
 不純異性交遊という言葉が、澤村の脳裏をよぎる。
(でも二人だと同性交遊だから、不純じゃないのか? え、そういうもん?)
 そもそも不純って、何だっけ。
「…とりあえず、どういうことか教えてくれ?」
 笑顔を保つよう努めながら、澤村が問うた。

「くすぐってたら、こうなってました…すいません」
「何だ、そういうことか。もう驚かすなよ。本当にビックリしたんだから」
 座り直した影山が頭を下げ、澤村と谷地は安心して胸を撫で下ろす。その横で、日向はムスッと頬を膨らませていた。
「おい日向、テメーも謝れよ! お前が余計なこと言うからこうなっちまったんだろうが!」
「くすぐっただけじゃねーじゃん…影山がエロい触り方するからじゃん」
 再び、場の空気が固まった。というより凍った。
「エロくねーよ!」
「エロかったもん!」
 影山と日向が声を張り合う間、澤村の顔から表情が消えていく。
 傍で見ていた谷地には、それが一番怖く思えた。

 その後、二人は澤村にこってり絞られたのだった。
 

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