排球

□遅れてきたプレゼント
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 部活の休憩中、おれは裏口にいる影山のもとへ近づいた。
 開いた扉から入ってくる冷たい風も、練習で火照った体には心地いい。
 影山は階段に腰かけ、靴紐を結び直している所だった。
「なぁ、影山」
 その背中に声をかけると、
「あ?」
 声でおれとわかったのか、振り向きもせず手を動かしたまま返事をした。
「お前ってさ、欲しいものとかあんの?」
 さりげなく聞くつもりが、直球になってしまった。影山は紐を結ぶ手を止め、ゆっくり顔を上げてこっちを見た。
 影山がまっすぐにおれを見つめたまま、少し沈黙の間があった。
 変に思われたかな、どうしよう。
 見透かすような視線に居心地が悪くなってきた頃、やっと答えが返ってきた。
「ある」
「マジで? 何何?」
「…それ聞いてどうすんだよ」
 うまくいくかも! と希望を持ったのも束の間、話は無愛想な影山の問いに遮られた。
 まあ、こんな質問の仕方じゃ、逆に聞き返されるよな。でもちょっとは心当たれよ。
 おれはしょうがなく白状することにした。
「お前、もうじき誕生日だろ? 一応世話になってるし、チームメートだし、その…まあ、プレゼントとか、やらないこともないと思ってんだよ。だから、そのリサーチ!」
 ああもう、どうしておれがここまで言わなきゃなんないんだ。恥ずかしくなってきて、最後は逆ギレ寸前だった。
 一方の影山はぽかんとした顔で、しばらく何も反応がなかった。
 思ってもみないことだったんだろう。けど、何か考えこむように眉を寄せた後、
「いらねーよ、別に」
 ぶすっとした顔のまま、それ言われたら終わりだと思っていたことをまんま口にした。
「何だよそれ!」
 おれのプレゼントは受け取れないってことか?
 すごく気が悪いぞ。
「…誕生日だから貰えるって内容のもんでもねーんだよ」
 話は終了とばかりに、影山は立ち上がる。
「それってバレーのてっぺん? まさか成績とか?」
 そういうのは、確かにあげられない。
「言ってろ、クソボケ日向」
 通り過ぎざまに、頭をぐしゃぐしゃとかき回される。こうされると髪の毛はボサボサになっちゃうけど、何故かちょっと気持ち良かったりする。
「くだらねーこと考えてないで、練習に戻るぞ」
「ちぇ〜…」
 結局、影山へのリサーチは失敗に終わってしまった。


 それから数日。
 午後の休み時間に、おれは廊下側の自分の席で絵本に寄せ書きをしていた。何人かの友達も集まって、ワイワイ言いながら。
 もうじき誕生日のクラスメートがいて、皆でその子の好きな絵本を買ってメッセージを入れて渡す計画だ。
 おれのクラスは結構、仲が良くて、こういう誕生日イベントがちょくちょくある。
 真似するわけじゃないけど、影山とも、そういうのがあってもいいのかな、なんて思っていた。いつ頃からか。
 でもアイツはあんな奴だし、おれに対してバレー以外の繋がりは、まるで求めてないってことなんだろう。
 影山の欲しいものって、何だったのかな。それも教えてもらえずじまいだった。
 …何か切なくなってきたぞ。
「どうしたんだよ日向、元気ないじゃん」
 きっと冴えない顔をしてたんだろう。隣にいた友達が、心配そうにおれを見た。
「う〜ん。相棒と思ってる奴がいるんだけど、おれって、思ったより信用されてなかったのかなぁって…」
 影山とはクラスも違うから、練習がないと本当に会わない。大抵は部活があるから、ずっと一緒にいるような気がしてたけど。
 実際は、こんなに接点がなかったんだ。
 ぼんやり廊下を眺めていると、廊下を歩いてくる、知った顔が目に飛び込んできた。
「…影山?」
 とりあえず睨むことにしてんのかな、という目つきの悪さは相変わらずで。
 通り過ぎるだけかと思ったら、何か用事があるらしい。窓越しに、おれの側へやって来た。
「え、何?」
 ちょうど影山のことを考えてた矢先に本人が現れて、おれは慌てた。
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