排球

□○○の味
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 影山の部屋にて。

「あー、それ新発売のやつ!」
 おれは影山が飲んでいるヨーグルを指差した。
「一口…」
「これはやんねーよ」
 おれのささやかなお願いを、影山はドシャットで却下した。
「何だよ〜、影山のケチ!」
 おれがブーブー言ってると、
「うっせー日向ボゲ」
 影山はおれをひと睨みして、持っていたヨーグルを飲む。
 そして何の前触れもなく、おれはぐいっと引き寄せられた。
 目の前に影山の凶暴な顔が、と思った時には唇が重なって。柔らかい感触と共に、ヨーグルの酸味とイチゴっぽい甘さが口の中に流れて広がった。
「!!!」
 反射的にそれをごっくんと飲み込むと、ようやく唇が離れた。
「ーーこれならやる」
 目が点になるおれに、影山は言った。してやったりと、マントを翻して笑う王様のように見える。
「なっ…ちょっと、おい!」
 おれは何とか日本語を思い出して、影山にくってかかる。
「お前がくれっつったんだろーが」
「だからって、やり方があるだろ!?」
「不満でもあんのか」
「ありまくりだ!」
 何でいきなり口移しなんだよ!? しかも不意打ちで!
 するとおれの言葉をどう受け取ったのか、影山はもう一度、そっと口づけてきた。
「…ん……」
 さっきより少し長くて、離れる時も、ゆっくり。
「………」
 ヤバい、顔が熱くなって、胸がドキドキいってるのが自分でもわかる。
 だって今のは、ちょっとだけ、優しい感じだった。
「…カオ、赤けーぞ」
 そういう影山だって頬が染まって、照れてるっぽかった。
「…お前もじゃんか」
「テメーのが赤い」
「おれはびっくりしただけだもん!」
 そう、絶対そんだけだからな。
 影山はふんと鼻を鳴らすと、とんでもないことを訊ねてきた。
「で、味は?」
「…ぐ…」
 それ聞くか?
「やったんだから、言え」
 こいつって、ほんっとに…。
 お互い座ってるし、座高はあまり変わらないはずなのに、この見下ろされ感は何だろう。
「う…」
 ヨーグルを味わう余裕なんてなかった。でも、ふんわりと甘酸っぱい余韻はあって。
 ただそれが、ヨーグルの味かキスの味かわからない。
 しかもここでうまいと認めたら、影山の横暴に負けたことになるんじゃないか。
 呻き声みたいなのを出して苦しむおれを、影山は面白そうに見物している。
 ま、負けてたまるか!
「…うまいとか言う訳ねーだろ!」
 おれはブチ切れると、ベッドの上にある枕で影山をぼすんと叩いた。
「痛ってーな日向! このボゲェ!」
「お前が変なこと言わそうとするからだろ、このクソ影山ーっ!」
 ここで、おれはうっかり影山の負けず嫌いスイッチを入れてしまったらしい。
「…テメー、ぜってーうまいって言わす」
 影山は枕を投げ捨てると、地の底から響いてくるような低い声で言った。怒鳴らない分、本気のやつだ。
 恐ろしいことに、あいつが飲み始めたばかりのヨーグルには、まだ中身がたっぷり残ってて…。

 その後、とてもおれの口からは恥ずかしくて言えない展開になったのだった。
 

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