Semi Sweet・1
□あなたに捧げるラヴストーリー
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「風邪ひきますよ」
今日は楽しみにしてたマンガ雑誌の発売日。
寮に着くまで我慢出来なくて。
公園のベンチで、気になる連載マンガの続きをむさぼり読んでいた。
(やっぱりいい話だな〜)
恋愛ものっていいよね。
ぽわんとひたっていたら、観月先輩の声がした。
あなたに捧げるラヴストーリー
「あっ?」
「こんなとこにいつまでいるんですか」
「あ、うん」
衣替えの済んだ制服は暑苦しく。
地球温暖化だね〜と笑ったら『本当に意味わかってるんですか?』と嫌味を言われたのはついこの間のことなのに。
今じゃ夕方になると、肌寒さを感じる。
(心配してくれてんだね)
テニス部のマネやってるだけの事はあります。
部員の体調管理とかきちんと考えてるから、あれこれ口出しするクセがついているんだろうね。
でも、あともうちょっとここにいたい。
「これ、これだけ読んだら帰るから」
今広げてる雑誌のページを指す。
観月先輩はチラッと目線を走らせた後、私の隣りに静かに腰掛けた。
読み終わるまで待っててくれるんだ。
私は読書(マンガだけどね)を再開した。
***
「面白かった〜来月が気になる!」
本を閉じて感想を述べる。
観月先輩は「良かったですね」と小さく笑った。
意外な反応に私は目をまるくする。
「なに驚いているんですか」
だってと私は口をとがらす。
「観月先輩の事だからこんなの時間の無駄ですね!って言いそう」
「確かにそう思ってますよ、不毛の快楽ですし」
か、快楽ですか?私では思い付かないその表現に、やっぱり先輩らしさを感じる。
「ちょっと借りますね」
寒いと思ったらいつの間にか日が暮れ始めてる。
差し込む光の下、オレンジに染まりゆく瞬間の観月先輩はとても綺麗。
眉間に皺をつくらなければもっといいのに!
そんな表情で女の子向けの雑誌をぱらばらと捲っている。
ある意味珍しい光景ではないか、木更津先輩あたりが見たらくすくす笑いが止まならそう。
最後のページまで捲ったら溜め息がひとつ。
あまりお気にめさなかったようだ。
「でも人の趣味をどうこう言う権利は僕にはありません、あなたにとっては大事なものなんでしょう」
ありがとうございますって、返してくれる。
僕にはちっともわかりませんがって言葉も付足して。
「観月先輩にわかったらすごいけど、あっ!そうだ!」
さっき読んだページを探す。
「でもね、すっごいいセリフがあるの告白シーンなんだけどね」
あれは泣けるから絶対!
目的のページを見つけ、読み上げようかと思った途端に、観月先輩は立ち上がった。
「行きますよ」
「えっ、待ってよ」
声をかける前に、もう歩き始めている。
ベンチに置いてあったカバンも急いで肩にかけて、立ち上がる。
もう自分勝手なんだから。
ちゃんとしてるように見えて、こういうところはマイペースなんだよね。
「いいセリフなのになぁ〜」
「結構です」
「・・・」
ちえっ、つまんないの。
拗ねてみせても、観月先輩の歩くスピードは変わらず。
私はその横に並ぶことに必死だ。
「そんな他人の書いた言葉より」
「えっ!?」
「夕飯遅れても知りませんよ」
「それは困る、今日はカレーなんだよね」
カレーカレー叫んだら、赤澤じゃあるまいしとあきれられた。
「そんな他人の書いた言葉より」
私の言葉で聞きたい。
さっき言ったのはそういう意味なんだろうか?