Semi Sweet・1

□あなたに捧げるラヴストーリー
1ページ/2ページ


「風邪ひきますよ」

今日は楽しみにしてたマンガ雑誌の発売日。

寮に着くまで我慢出来なくて。

公園のベンチで、気になる連載マンガの続きをむさぼり読んでいた。

(やっぱりいい話だな〜)

恋愛ものっていいよね。

ぽわんとひたっていたら、観月先輩の声がした。



あなたに捧げるラヴストーリー



「あっ?」

「こんなとこにいつまでいるんですか」

「あ、うん」

衣替えの済んだ制服は暑苦しく。

地球温暖化だね〜と笑ったら『本当に意味わかってるんですか?』と嫌味を言われたのはついこの間のことなのに。

今じゃ夕方になると、肌寒さを感じる。

(心配してくれてんだね)

テニス部のマネやってるだけの事はあります。

部員の体調管理とかきちんと考えてるから、あれこれ口出しするクセがついているんだろうね。

でも、あともうちょっとここにいたい。

「これ、これだけ読んだら帰るから」

今広げてる雑誌のページを指す。

観月先輩はチラッと目線を走らせた後、私の隣りに静かに腰掛けた。

読み終わるまで待っててくれるんだ。

私は読書(マンガだけどね)を再開した。

***

「面白かった〜来月が気になる!」

本を閉じて感想を述べる。

観月先輩は「良かったですね」と小さく笑った。

意外な反応に私は目をまるくする。

「なに驚いているんですか」

だってと私は口をとがらす。

「観月先輩の事だからこんなの時間の無駄ですね!って言いそう」

「確かにそう思ってますよ、不毛の快楽ですし」

か、快楽ですか?私では思い付かないその表現に、やっぱり先輩らしさを感じる。

「ちょっと借りますね」



寒いと思ったらいつの間にか日が暮れ始めてる。

差し込む光の下、オレンジに染まりゆく瞬間の観月先輩はとても綺麗。

眉間に皺をつくらなければもっといいのに!

そんな表情で女の子向けの雑誌をぱらばらと捲っている。

ある意味珍しい光景ではないか、木更津先輩あたりが見たらくすくす笑いが止まならそう。

最後のページまで捲ったら溜め息がひとつ。

あまりお気にめさなかったようだ。



「でも人の趣味をどうこう言う権利は僕にはありません、あなたにとっては大事なものなんでしょう」

ありがとうございますって、返してくれる。

僕にはちっともわかりませんがって言葉も付足して。

「観月先輩にわかったらすごいけど、あっ!そうだ!」

さっき読んだページを探す。

「でもね、すっごいいセリフがあるの告白シーンなんだけどね」

あれは泣けるから絶対!

目的のページを見つけ、読み上げようかと思った途端に、観月先輩は立ち上がった。

「行きますよ」

「えっ、待ってよ」

声をかける前に、もう歩き始めている。

ベンチに置いてあったカバンも急いで肩にかけて、立ち上がる。

もう自分勝手なんだから。

ちゃんとしてるように見えて、こういうところはマイペースなんだよね。

「いいセリフなのになぁ〜」

「結構です」

「・・・」

ちえっ、つまんないの。

拗ねてみせても、観月先輩の歩くスピードは変わらず。

私はその横に並ぶことに必死だ。

「そんな他人の書いた言葉より」

「えっ!?」

「夕飯遅れても知りませんよ」

「それは困る、今日はカレーなんだよね」

カレーカレー叫んだら、赤澤じゃあるまいしとあきれられた。





「そんな他人の書いた言葉より」





私の言葉で聞きたい。

さっき言ったのはそういう意味なんだろうか?


次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ