Semi Sweet・1
□とても綺麗
1ページ/1ページ
とても綺麗
「おい、お前!」
「・・・」
「聞こえないのか!」
教室掃除なんて面倒なこと、誰だってやりたくはないけど。
サボって逃げて、もしシュタイン博士に見つかって、補習とか呼び出しとか。
ましてや、俺の研究所においでなんて言われた日には生きた心地がしない。
だから今日も真面目にするんです。
箒で掃いて、モップもかけて、完璧にぴっかぴっかに。
うん、これでいいや自分に花丸あげたいくらい。
さて帰るかと、振り返ればキッド君がせっかく磨いた床をがんがん叩きながら「くそ、鬱だ、死のう」と一人でなんか騒いでいる。
埃がたたないといいけど。
あたしは床に向いたままのキッド君の体をひょいとまたいで、教室をでる。
あっ、そうそうちゃんと挨拶しなければ。
「キッド君さようなら、また明日ね〜」
返事はなく、キッド君はまだ床となかよしこよしのままだ。
「お前さ、あれはひどくねぇか?」
廊下にでると、ソウルが親指を教室に向けている。
それが指し示すものはもちろんキッド君。
なにがひどいのかな、言ってる意味がわからないですよ。
「真剣に掃除するのもいーけど、あいつさっきからお前に話しかけてただろ!!なんで無視するんだ」
「吃驚だね〜」
「なにがだよ」
「ソウルがキッド君のこと心配するのがだよ、そんなの関係ね〜クールにいこうぜ!って言いそうなのに」
「お前の中の俺のキャラはそんなのかよ・・・って、話しごまかすなよ!!」
ばれましたか。
掃除の間中、ずっとキッド君はあたしに話しかけていた。
そんなの知ってる、わからないなんてよほどの馬鹿だ。
でも、知らん振り。
だって聞いちゃったんだ、キッド君があたしの事好きらしいって噂。
このあたしをだ!全くもって不思議でならん。
「ならんって(なんだその言葉遣い)、でも好きになったもんは仕方ねぇだろ」
「だってさぁ」
あたしのどこがいいんだろう。
シンメトリーを心底愛してる彼。
だけど、あたし自身にはそのシンメトリーな美しさの欠片もない。
わからないかなソウル、あたしは自分に全く自信のない臆病者なんだよ。
いっそのことそんな噂聞かなきゃ良かったと思うほどに、ここ数日心がざわざわして仕方ない。
だからね。
せめてきっちりかっちり完璧さを求める彼に習って。
きっちりかっちり完璧に教室掃除に勤しんで心を落ち着かせてみようかと思っていたのに。
心騒がす存在が目の前に現れちゃうんですよ?
どうすればいいっていうのよ。
だったらその存在を見えてないように振舞う方が、幾分か楽。
じゃないと話しかけられただけで、動悸、息切れ、めまいです。このままでは死ぬんじゃないあたし。
「死ぬか、ばーか」
ソウルはそれだけ言うと、お前責任持ってあれをどうにかしとけってあたしらを放置プレイのまま退場。
あれ呼ばわりされたキッド君はまだ鬱状態。
「どうにかって言われても・・・」
ごくり。唾を飲み込む。
あたしは教室に戻り、まず彼に一言「ごめん」って謝った、あたしの態度は失礼以外の何者でもない。
キッド君が顔を上げて、二人の目が合う。
また動悸、息切れ、めまいが起こるけど、吹き飛ばす気持ちで手を差し出す。
「行こう」
どこに行くかなんてそんなの全くのノープラン。口が勝手に動いていた。
こんなゴミだめ的存在の俺と一緒でいいのか?なんてちょっとヘタレた感じで言ってくるから。
もう引っ張り上げたくなった。
『好きになったもんは仕方ねぇだろ』
そうだね、ソウル。
どんな理由であたしを好きなのか、ボンボンな彼の気持ちはやっぱりわからないけど。
あたしがこんなにもこの人をほっとけないって思ってる。
立ち上がったキッド君はあたしが声をかけた事で元気を取り戻していた。
立ち直りが早い人なんだね。
二人で繋いだ手が熱かった。
恥ずかしくて離したかったけど、さらに強く握られたのであたしにはどうすることも出来ない。
「うむ、では行くか」
いつの間にか形成逆転されてる!
リードするように、キッド君が歩きだしていた。
ぴっかぴっかな教室の中で、あたしは真っ赤になりながら、心の中きらきらに光る一番星を見つけた。
臆病者が見つけた一番星。
それはこの世界のどんなシンメトリーよりも綺麗なんだと思う。
end
2008/07/13
今回はヘタレなキッドと天邪鬼なヒロイン。
また数時間仕上げ。
感想などありましたらお願いします→clap