Semi Sweet・1
□夢で逢えたら
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全くの馬鹿げた妄想ではあるが。
もし私が魔女であるなら、当然彼は私を追いかけるだろう。
敵対する二人、ちょっとドラマチックでもある。
もし私が武器で、さらにシンメトリーな形であったなら。
彼は私をパートナーにしてくれるだろう。
いつも一緒に行動出来る、これはかなりぐっとくる展開である。
もし私が死武専の生徒であるなら。
あの手この手の恋のかけひきとやらを日々考えながら。
アオハルな学園生活を彼と送れるであろう。
でも、現実では。
私は魔女じゃない(当たり前だ!)。
武器でもなければ、職人でもなく、もちろん死武専に入学出来るわけもない。
私はただの・・・
夢で逢えたら
「いらっしゃいませ」
店に入ってきたお得意様に声をかける。
頼んでいたもの出来てる?嬉しそうな声に応えるように、コチラですとブーケを渡す。
ありがとうイメージ通りだわ、またお願いしますね。
友人に送る花束を抱え出て行く後姿に「ありがとうございます」と声をかけて、またぼんやりと妄想を再開する。
私はただの花屋の店員。
この仕事は好きだし、不満なんてもちろんない。
親の店をそのまま継いでることに異を唱える気もない。
だけど、あの人を。
死神様の息子に憧れにも似た気持ち・・・つまり好意を持つようになってから。
彼と自分の世界の違いについて、考えるようになっていた。
♪♪♪
うちの店は死武専からの通り道にあることもあって。
前からそこの生徒さんを目にする事は多く。
彼らを観察するのは、ほぼ日課のようなものだった。
でも、別にそれに意味は特になかった。ただの暇つぶし。
彼が来るまでは。
(見たことない子だな・・・)
黒ずくめの細い男の子。
両脇には姉妹らしい女の子の二人組、お揃いの服を着ている。
最初から目立つ三人だった。
(あんな子死武専にいたんだ)
それからというもの、なぜか私はその三人が店の前を通ると、自然に目で追うようになり。
彼らの会話から、彼が死神様の息子で、いつも一緒の二人が彼の扱う武器であることがわかった。
時々、登校途中で「トイレットペーパーが」「部屋の額縁が・・」と言い出して、彼が学校に行くのをしぶりだすことがあり。
最初はなんのことやらさっぱりだったけど。
神経質な性格のようで、なにもかもシンメトリーにしないと気がすまないと言うのを後から知った。
(だから、武器も二人なんだ、変なトコにこだわる人なんだな)
死神様の息子だなんて、私から遠い存在だし。
想像ではもっと恐ろしい感じの人なんだろうと思ってたから。
彼の事がわかってくると、可愛い人に見えてきた。
名前はキッド君というらしい、ここまでくるとストーカーじみた己の姿に笑えてくる。
だけど、どんなに彼の情報を集めてもあくまで私は傍観者。
私とキッド君の間にはなにもない。
私がどんなに彼を見つめていても、その線が交わることなんてない。
「わかってるんだけどね」
そろそろ授業が終わる、キッド君達が通る時間だ。
私はわざと店の外側に置いてある鉢植えに水をあげにいく。
そうしているうちに・・・騒がしい声が近づいてくる。
「じゃあこの後、マカ達のアパートに集合な〜」
「ちょっと、ブラックスター勝手に決めないでよ」
「まぁ、いいじゃねぇかよ」
「ソウル、昨日焦がした鍋そのまんまでしょ?ちゃんと台所片付けてくれないとあたし何も作らないからね」
「・・・やっぱりキッドの家にするか」
「ふむ、かまわんが」